2015.04.22
投票率の低下傾向 「日本中に『非政治』が蔓延している。」
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【議事概要】第210回J.I.フォーラム2015.03.25
「統一地方選を『自分事』に」~投票はまちづくりの第一歩~

JIF@210の写真です。

山梨学院大学教授の江藤俊昭氏、「食べる政治」代表の増沢諒氏、福岡県大刀洗町長の安丸国勝氏の3名をゲストに迎え、投票率が低下傾向にあることを背景に、どのように統一地方選挙から政治への関心を高め『自分事』にするかについて議論が行われた。

まず、ゲストの方々からそれぞれの活動とその趣旨について説明された。

 

 

 

増沢氏「人間にとって最も身近な食べること」

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増沢氏は、食を通じて身近なところから政治への関心を高める取り組みや、ネットと政治に関する取り組みなど、これまでの活動を紹介。

「人間にとって最も身近な食べることから政治への関心を高める目的で、食べ物付きの雑誌を提供している。例えば防災について考えようと言っても難しい。ただ、最近の備蓄用非常食はかなり美味しくなっていて、それを食べることから防災に関心を持つことは可能。政治となると圧倒的に男性が多いが、『食べる』という誰にでも身近なものを切り口にすることで、女性も参加しやすくなるし、話題にもなりやすい」

「SNSを活用した選挙啓発活動も実施したが、政治に関する本質的な内容では盛り上がりに欠けていた。ネットは波及効果が大きいが、ワンクリックだけの行動になるので実感が少ない。ネットの世界でビジネスをしてきたが、試行錯誤した結果、食べるという最も身近でかつ紙媒体やリアルな行動から広がりを作ることにした。その方が手応えがあった」

 

 

 

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安丸氏「町にとって重要なテーマについて住民の代表者(委員)に議論してもらう」

安丸氏は、大刀洗町で今年度から実施された住民協議会について説明。

「福岡県大刀洗町は15500人の町で2010年度から3回事業仕分けを実施してきた。対象事業は聖域なく選んだため、自分にとって非常に厳しい結果も多かった。しかし、それこそが将来の住民のためになると思っているので、引き続きやっていきたい」

「今年度は住民協議会を始めた。町にとって重要なテーマについて住民の代表者(委員)に議論してもらうしくみだ。委員の選び方は無作為抽出で1000人に送付し約80人から応募があり、その中から約50人が協議会に参加した。来ている人の大部分は今まで役場と関わってきていない人たちだったが、議論していくと、町のことが他人事から自分事に変わったことを実感した。この協議会は条例で設置したので、一定の権限を持っており、昨年度は一年間に9回実施した。最初のテーマはゴミ問題だったが、その時の答申を受けてゴミ袋の大きさを変えた。具体的な変化が見えている。これで終わらせることなく来年度も継続していく」

 

 

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江藤氏「年齢を引き下げるだけで良いわけではない」

江藤氏は、投票率を高める上で、自分事として政治に関する実感を持つことの重要性を述べた。

「今後18歳に選挙権年齢を引き下げることになるだろうが、年齢を引き下げるだけで良いわけではない。若い世代の投票率が更に下がることになるかもしれない。単に勉強をしたから関心が高まるということではなく、有権者が政治に関わることの実感を持たないと投票などの行動には繋がらないだろう。政府は市民教育に力を入れ始めているが、それは勉強の域を超えていない。その中で、大刀洗町の住民協議会という取り組みは素晴らしい。その先は、地方議会の必要性にまで議論が到達するだろう。これを契機に議会の役割について本気で議論をする絶好のチャンスとも言える」

後半は、議会・選挙の在り方を軸に議論が行われた。

 

 

江藤氏「社会活動の一つとして捉える」

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「中央集権の下では、議会は追認機関としての立場で良かったが、議会基本条例の動きが出始めてからそれは大きく変わってきている。その流れを議員側がまだ分かっていない部分がある。ただし、これは議会だけの問題ではなく、行政も住民もそこに参加できるような仕組みづくりが必要。特に近年は、国でも地方でも、政治に関心を持たない「非政治」が蔓延している。市場原理主義は結果として政治行政を軽視する、反政治につながる」

「争点の単一化は劇場型を作りやすい。その結果、国民(市民)は政治家や行政職員を敵とみなす。このあたりは議会だけが頑張っても変わらない。住民協議会のような会議体をを議会の下に設置するという選択肢も考えられる。住民の声を政策に活かすということは議会基本条例の理念そのもの」

「政治を特殊なものとしてではなく社会活動の一つとして捉えることが大切。住民協議会もその一つと言える。協議会などの利害調整機能を設置し、個々の意見を全体として議論する仕組みを設けることで、今後の政治のあり方が大きく変わるだろう」

「地方議会選挙は誰に投票すれば良いかわからない人が大半ではないか。今の地方議会は大選挙区単記非移譲式(市全体で選挙区が一つ、1人だけを記し、他の候補者に得票数を移譲することが出来ない)で世界に例がない。有権者というよりは選挙制度に問題があると言える」

「選挙では争点が明確にならないことが多い。であれば、議員ではなく住民側から争点を作ることがあっても良いし、そういうのはインターネットでやりやすい。『逆マニフェスト』(選挙の時に市民にどう考えるかを投げかける)という動きも出ている」

「政治に入る間口を広げることが大切。住民協議会のような抽選方式はまさにその実践例である。どれだけ投票率を上げようと言い続けても実体験がなければ変化は起きない」

 

 

増沢氏「政治をある程度具体化することで意識や参加が高まるだろう」

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「政治は胡散臭いとよく言われるが、同世代・若者への政治参加や投票の呼びかけをしていて、抵抗感はそこまでないように感じる。『食べる政治』の『政治』という言葉にはインパクトがある」

「あるアンケート結果によれば、日本の20代の社会貢献意欲は70%程度で他の国よりも高い傾向にある。政治参加というと漠然としているが、議員インターンなど政治をある程度具体化することで意識や参加が高まるだろう」

「投票に行くための理由を数式にした研究者がいる。コスト/ベネフィットと義務感のバランスを数値化して分析している。例えば、投票日に雨が降ると投票場へ行きにくくなる、つまり投票するためのコストが大きくなるので投票率が下がる。逆に、最近大学やイオンで期日前投票が出来るような動きがみられるが、これらの取組みは有権者にとって投票しやすくなる(コストが下がる)ため投票率は上がると考えられる。」

「以前、参加者を20代限定で20代への政策をテーマにした国会議員との意見交換会を開催した。何もしていない政党もあれば中身がたくさんある政党もありとても面白かった」

 

 

 

安丸氏「議員の役割が問われる」

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「議会は全て反対しているわけではないが、私が何かをしようとすると政策の実施までが早すぎると言われる。しかし、民間企業を経営していた立場からすると今ですら遅いと感じている。二元代表制なので本来は議会と首長は両輪のはずだが議会はうまく機能していないように感じる」

「住民協議会に議員は入っておらず、協議会設置に対して明確に反対していた議員は1人くらいであった。その時は何をするのかよくわからなかったからだと思うが、協議会が続くと議員の役割が問われることに気付き始めた人が増えてきた。本来、住民協議会は町長ではなく議会が設置すべきだと思っている。それが住民の声の代弁につながるのではないか」

 

 

 

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加藤代表「『楽しかった』という感想が出る」

「多くの自治体では議員の給料を下げる動きがある一方で、長崎県の小値賀町では若い世代に議員になってもらおうと、50歳以下の議員報酬を値上げすることを決めた。これは面白い取り組みだと思う。選挙や議会のそもそもの仕組みをどうするかという議論が必要」

「大刀洗町の住民協議会は、構想日本が実施している仕分けの無作為抽出による市民の評価から派生したもの。市民判定人の方々に向けたアンケート調査をしてみると、政治に対する関心は依然より高まっていることが明確だった。また、行政の会議は難しいことばかりの中で『楽しかった』という感想が出るほどで、こちらとしても意外だった。これこそが、自分事に繋がった証拠ではないか」

(〜構想日本Webページより転載〜)