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タイトル::【No.760】 「山からの便り・美山森林学校(8)」
発行日::2016/06/09
本文:
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   J.I.メールニュース No.760 2016.06.09 発行 

   「山からの便り・美山森林学校(8)」

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【1】<巻頭寄稿文>

   「山からの便り・美山森林学校(8)」

           美山森林学校校長  小林 直人

【2】<お知らせ> 

   (1) 第225回J.I.フォーラム  6月27日 開催 
      
   若者の政治参加を考える ー 政治を「自分事」にするために必要なこと ー
  
   (2) 今後の構想日本の活動

   (3) Yahoo!ニュースオーサー記事更新!

   (4)「現場みらい塾」 第4期 募集中

【3】<ご紹介>

   (1)「職人がいる町、塗り壁のある暮らし -その終焉がもたらすもの」

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【1】「山からの便り・美山森林学校(8)」

           美山森林学校校長  小林 直人

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日本から早乙女が姿を消してからもう半世紀以上になる。
貯蔵しておいた自家の籾を杉の盥に浸水させて、発芽を促してから苗代に撒いて育てる習慣も必要が無くなった。

かつては十五cmほどに伸びた早苗を一把に縛って、立人(たちうど)の男達がそれを後退しながら植えてくる早乙女の尻目がけて放り投げた。

彼女達の手持ちの苗が無くなる頃を見測ったように、今、そこ、にある為には、立人が畔を移動して間合いをとらなければならない。だから、田んぼは程々の大きさで決まっていた。

一尋が、両手を左右に伸ばした長さであるように、人の身体を基準にした外界との関わりは、働く為の工夫でもあったのだろう。

農業の機械化は急速に進んでいる。美山町も圃場整備が完了してから既に30年が経っている。田圃の区画を大きくすることは、農作業の効率を上げる為に欠かせない構想であった。

「田圃は四角に、心は丸く」※1のキャッチフレーズは、複雑な交換分合を成し遂げる為に役場のスタッフが考え出した絶妙の発想であった。

彼等は57の在所を訪問して懇談した。その回数が200回以上と言うから、一箇所当たり3回以上在所を巡ったことになる。

原発の再稼働については、それほど説明を受けた記憶が無い。30キロ圏にスッポリ入る問題は置き去りにされたままだ。

こうして圃場整備が完了すると農作業は激変した。一条植えの歩行式から二条・四条と倍加して、現在は六条植えになっている。当然、機械は大型化し素人の手に負えなくなった。

こうして、米作りは変貌して行った。

田植え・草とり・消毒・施肥・稲刈り・乾燥・脱穀の7工程から3工程に機械化された。田植え・(草とり・消毒・施肥)・(稲刈り・乾燥・脱穀)となる。
 
草取りの対象は、水田に随伴する雑草だが、なかでも稗は始末が悪い。何食わぬ顔で稲と同じ様子で生長を始めるので、いつの間にか背丈を追い越して穂を稔らせるのだ。放っておくと実りの秋が台無しになる。黄金色が隠れて茶色に被われてしまう。

このままでは収穫の喜びが味わえない。かと言って、炎天下に一日中腰をかがめ、手作業で草取りをする忍耐力も無くなった。
 
数年前からではあるが除草剤(デュポン社)を使っている。茶袋くらいの紙袋をポーン・ポーンと放り投げるのである。(一反に5袋くらい)見ている間に溶解して薬が拡散して行く。こわいくらいの素早さである。僕の使用する唯一の農薬。これを低農薬と言うのか僕は知らないが、少なくとも無農薬ではない。後、肥料は油粕のペレット(20キロ)。畔を巡りながら手で撒く。これを有機栽培と言うのか僕は知らない。
 
そして稲刈りである。晴天が二日ぐらい続くと、僕の周りの田んぼはあっと言う間に刈り取られてしまう。

まず、4トン車の荷台一杯ぐらいのコンバインが運ばれる。キャタピラーが田圃に突入する。ゴーと響くエンジン音を聴く時、僕はフランシス・コッポラの「地獄の黙示録」を思い出す。映画ではワルキューレの騎行が大音響で鳴り響いた。ベトコンが潜んでいる海岸林を焼くナパーム弾。アパッチヘリから身を乗り出すカウボーイハットの将校。(サーフィンウエーブを空から確かめているのだ)ベトナム戦争中に波乗りを楽しむのか。

やがて、将校はメコン河を遡ってカンボジアに入る。そこでキングダムに君臨するカーツ大佐(マーロンブランド)暗殺の任務を負っている。CIAの言うことを聞かないのだそうだ。

僕の田圃と同じ面積(2反)に突入した美山町のワルキューレの騎行は一時間ぐらいで終る。

対照区※2のようになった僕の田圃はその頃、まだ半分も進んでいない。怠けている訳ではなく、バインダーで一条刈をしているせいだ。コンバインは駆け足、こちらは散歩速度。

それでも、刈った稲を縛って投げ出してくれる。あり難い。

刈終わると四段干しの稲木を立てる。稲を拾い集めて稲木に掛ける。
その頃、ワルキユーレは遥か向こうの田圃を刈っている。

最初の米はすでに乾燥の工場に運ばれているのだろう。2日もすれば袋詰めの新米が依頼主の家まで届くだろう。

僕の田圃ではまだまだ作業が続く。三枚のうち乾きの悪い田圃(圃場整備事業に参加する為に一枚だけ交換分合した)が一枚あって、全部終えるには更に二日ほど晴天を待たなければならない。

稲木に干す時間は2週間くらいである。その間には雨の日もあるので、その時はシートを被せる。かけたり外したり、そのイタチゴッコの間に意地が沸いてくる。一滴も濡らすものか。

太陽の力だけに頼ってよく渇いた稲を脱穀できる幸せを喜ぶ。
コッポラの映像にカンボジアの川辺でボートを離れるシーンがある。貧しい山村、田植えを終えて間もない田圃の側を兵士が通りすぎる。

なんという安心感。かつては日本もそうであったに違いない落ち着き。
そこにはミレーの「晩鐘」の情景がそのまま残っていた。
 
 ※1美山町が独自に作ったキャッチフレーズ
 
 ※2実験時、実験を行ったほうを実験区,対照実験を行ったほうを対照区ということを踏まえた、例え。

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小林 直人(こばやし なおと)

1941年生まれ。同志社大学文学部卒業。京都府南丹市で林業を生業にする。美山森林学校校長。

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【2】(1)第225回J.I.フォーラム  6月27日 開催 

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  若者の政治参加を考える ー 政治を「自分事」にするために必要なこと ー

選挙権年齢が70年ぶりに18歳以上に引き下げられます(前回の引き下げは25歳以上から20歳以上に)。7月の参院選では18、19歳の有権者の投票行動はどうなるのでしょうか。

しかし、より本質的なことはこれら若者を含む全有権者が国や地域社会の抱える課題を「自分事」として考えられるかどうかです。

「若者の政治参加」のオピニオンリーダーと実際に活動している若者をゲストに迎え、これを機に若者だけでなく老・壮世代も含めて政治を「自分事」にするにはどうすべきか議論して頂きます。


  ◯日 時:平成28年6月27日(月)  18:30~20:30(開場18:00)

  ◯会 場:日本財団ビル2階 大会議室  港区赤坂1-2-2 TEL 03-6229-5111 

        ※場所にご注意ください

  ◯ゲスト:青木 大和 (政治活動家)

       後藤 寛勝 (NPO法人 僕らの一歩が日本を変える。代表理事)

       杉浦 正和 (芝浦工大付属柏高校 教頭)

       原田 謙介 (NPO法人YouthCreate 代表理事)

       水野 翔太 (名古屋わかもの会議 総合統括)

    他

  ◯コーディネーター:加藤 秀樹(構想日本代表)

  ◯主 催:構想日本

  ◯定 員:160名

  ◯参加費:一般 2,000円 / 学生 500円 (構想日本会員は無料です)
                ※学生の方は受付にて学生証をご提示ください。

  ◯懇親会参加費:4,000円(ご希望の方は懇親会参加とお申込み時に明記して下さい)
          ※フォーラム終了後、ゲストを囲んで、懇親会を開催いたします。

    「頤和園(いわえん)溜池山王店」港区赤坂1-1-12 TEL 03-3584-4531
 
 ※フォーラムへのご参加は6月27日(月)12:00まで info@kosonippon.org  にお願いします。

  お申し込みはこちらから http://www.kosonippon.org/forum/index.php 

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(2)《今後の構想日本の活動》

 《その他》

2016年4月~隔週月曜日 京都大学経済学研究科・経済学部 特殊講義「公共経営論1」 (代表 加藤秀樹)

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(3)Yahoo!ニュースオーサー記事更新!

  Yahooニュースにオーサーとして投稿している記事が更新されました。ぜひ御覧ください。

  代表 加藤秀樹

  ◇3月8日 防災を「自分事」に

   http://bylines.news.yahoo.co.jp/katohideki/20160308-00055180/

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(4)「現場みらい塾」 第4期 募集中

人口減少、高齢化、不十分な予算と人員など、自治体にとってはますます厳しい時代になっています。

しかし、そんな状況の中でも、よくよく考えると、解決策が見えてきます。

この塾は、単なる「研修」ではありません。自治体のどの仕事にも応用できる、知恵の出し方を身につけるトレーニングの場です。

他自治体の職員、議員、民間人と一緒に半年間議論し、学び合うゼミ形式のプログラムです。

受講生はこれまでに約50名。問題意識の高い自治体職員、議員のネットワークも大きい財産です。ここから日本が変わります。

― 第4期カリキュラム ―  ※現時点の予定ですので、変更の可能性があります。

第1回:7月30日(土)13:00~18:30、31日(日)10:00~16:00

第2回:8月27日(土)10:00~18:00

第3回:9月24日(土)10:00~18:00

第4回:11月5日(土)13:00~18:30、6日(日)10:00~16:00

自治体職員を主な対象としていますが、それ以外の方も参加可能です。是非お申込みください。

その他詳細はこちら

 http://www.kosonippon.org/project/detail.php?id=713

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【3】<ご紹介>

 構想日本が応援している活動に関するお知らせです。

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日本左官会議講演会・東京編

「職人がいる町、塗り壁のある暮らし -その終焉がもたらすもの」

日本の左官文化の魅力、「普通の壁」の優しさを見つめなおし、その豊かさを失いつつある現状と私たちの住まい、暮らしについて考えます。

ぜひ、この機会に左官の世界、土壁の魅力をご理解いただければと思います。奮ってお申込みください。

◇日時:2016年6月13日(月) 18:00-20:00 (開場 17:00)

◇登壇:挾土秀平(左官)/原田進(左官)/小林隆男(左官)/宇野勇治(建築家、愛知産業大学准教授)/西田司(建築家・オンデザインパートナーズ)/他

◇会場:東京大学弥生講堂一条ホール(東京都文京区弥生1-1-1 東京大学農学部内)

◇参加費:一般 1,500円 (前売り1,200円)/日本左官会議 会員 1,000円   

◇定員:250名

◇主催:公益社団法人日本左官会議

◇お申込み:詳細はこちらから → http://www.sakanjapan.com/forum.html

 挾土氏のメルマガ → http://www.kosonippon.org/mail/detail.php?id=710 

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