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【No.111】国立大学法人法への「緊急アピール」をふりかえって

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国立大学法人法への「緊急アピール」をふりかえって
JIメールニュースNo.111  2003.8.29
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■■ 目次 ■■
1.《日本の未来》国立大学法人法への「緊急アピール」をふりかえって
2.《お知らせ》

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1.《日本の未来》国立大学法人法への「緊急アピール」をふりかえって
–「現場の声」を反映する附帯決議の実現に向けて–
東京大学大学院理学系研究科
ビッグバン宇宙国際研究センター長 佐藤勝彦
●国立大学法人法の「ねらい」
国立大学法人法が7月9日参議院本会議で可決された。これにより、
来年4月から国立大学は法人となる。国(文部科学省)の行政機関のひ
とつであり、また国家公務員であるためにできなかったことが、法人
化により可能となる。さらに大幅な自由度を得、自ら優れた高等教育、
研究を進めることのできる大学をデザインできる。これが法案を提案
した政府のうたい文句であった。実際、国会答弁においても、国立大
学法人法は大学の自由度を高めるものである、と遠山文部科学大臣は
繰り返し述べた。
もともと国立大学の法人化は、「公務員の人員を減らす」という橋
本内閣時代に決められた行財政改革の一環として考えられたものであ
る。国立大学を国から切り離し法人にしてしまえば公務員の削減を一
挙に進めることができる。このような「不純な」動機から始まった国
立大学法人法案に当初反対していた文部科学省も、結局、法人化の方
向を決めざるを得なくなってしまった。

●法の趣旨を活かすために
このように、国立大学法人法は、真に大学の改革・発展のために考
えられたものではなかった。その実質を見ると、管理費ばかりが増加
し、国による大学の規制はむしろ強まると懸念される。そこで、私は
一貫して国立大学の法人化には反対してきた。

しかし同時に、私は今年の3月まで、東京大学大学院理学系研究科
長・理学部長を務めていた。そのため、国立大学の法人化に対しての
対応も進めなければならなかった。この法人化に受身的に対応するの
ではなく、積極的に自らの改革を進める機会と考え、攻めの姿勢をも
って対処するように努めた。自らのミッションをまず明確にするため、
理学系研究科長・理学部憲章を定めた。
(「憲章」全文は http://www.s.u-tokyo.ac.jp/gai/kensyou.html
「国立大学法人法案に対する政府見解の表明に関する要望」全文は
http://www.s.u-tokyo.ac.jp/info/houan.html を参照ください)
また東京大学全体でも憲章が定められた。法案の趣旨どおりの真の
自由度が大学に与えられるならば、憲章に沿って自らをデザインし、
さらに世界の教育・研究として発展させることができると考えたから
だ。(「憲章」全文は、以下のPDFファイルをご参照ください
http://www.adm.u-tokyo.ac.jp/soumu/soumu/kensyo.pdf )

●参議院での法案審議
国立大学法人法案は、今年2月末に閣議決定され、あっという間に
衆議院で可決されてしまった(4月3日衆議院文部科学委員会付託、
5月16日委員会可決、5月22日本会議可決)。参議院に付託され
たのは、5月末であった。6月半ばには、もはや、法人化後の大学の
制度設計にのみ専念すべき段階だと考えていた。
ところが、この頃「地球学の世紀」(松井孝典東京大学教授が首唱。
株式会社ウェッジ編集局が事務局)の会合で、加藤秀樹氏(構想日本
代表)から、「附帯決議」には法的な拘束力はないものの、法の運用
などには重要な意味を持つことを教えてもらった。そこで、この国立
大学法人法はすでに衆議院での議決を終えているため、修正は難しい
かもしれないものの、「現場の声」を反映した附帯決議を参議院で実
現する活動をしよう、と加藤氏、松井氏と意気投合した。

●「緊急アピール」による呼びかけ
そこで、大学側の人間からまずこの法案の問題点を指摘する「緊急
アピール」を出すことにした。そのアピールへの賛同を募り、それら
をたずさえて国会議員に面会を申し入れ、法案の問題点、附帯決議の
重要性を訴えることにした。
「緊急アピール」の内容は6月20日にかたまった。第1に「中期
計画・中期目標」について大学の自主性を求め、第2に人事制度に大
学の自主的・自立的意思決定を確保し、学術政策に関する企画段階から
の研究者の関与を求め、第3に研究機関について、特に大学附置の共
同利用研究所・センターの研究の組織的基盤を財政的に確保すること
を求めた。これをさっそく松井、佐藤の名で大学人に呼びかけたとこ
ろ、見る間に122名の方々が賛同した。
(詳細は、http://www.kosonippon.org/cp-bin/wp/doc/?no=195 をご覧下さい)

●政策ディスカッションの開催
6月25日には、国立大学大学法人法に潜む問題をかねてより指摘
していた櫻井よしこ氏のご協力も得て、加藤氏司会のもとに議員会館
内の会議室で政策ディスカッションも開催した。参議院の質疑で大学
と文部科学省とのやりとりを明らかにした櫻井充議員、民主党の修正
案を作成した鈴木寛議員、共産党の国会議員や大学関係者など100
名近くの方々が集った。
6月30日からは櫻井よしこ氏に加えて、国立大学法人法の問題点
を指摘した論考を新聞記事に執筆した長谷川真理子氏も加わり、延べ
40名を越える国会議員に面会し、「緊急アピール」趣旨を伝え、附
帯決議をつけることの重要性を繰り返しお話した(このように多くの
国会議員に短期間に直接会うことができたのは、櫻井よしこ氏、松井
孝典氏、加藤秀樹氏の「顔の広さ」による)。
こうした活動は、遠山文部科学大臣に対する櫻井充議員の追及がき
っかけとなり、参議院での審議が大幅に遅れたことにも助けられた。

●真の大学改革に向けて
結局のところ、法案は原案通り可決された。しかし、我々の求めた
事項も含め、23項目にわたる附帯決議も同時に可決された。特に、
大学附置研究所に関する第14項は、基礎科学の分野にとっては極め
て貴重な内容を含んでいる。「国立大学附置研究所は、大学の基本的
組織の一つであり、学術研究の中核的拠点たる役割に鑑み、短期的な
評価を厳に戒めるとともに施設費補助金等の財政支出の充実に努める
こと。」とある。
国立大学法人法の成立を受け、大学での制度設計は加速している。
この法は、大学制度発足以来の悪法なのかもしれない。しかし、制度
設計、実施の段階で真に大学の改革となるよう、我々としては努力し
なければならない。この附帯決議がその段階で大きく役立つと期待し
ている。最後になるが、今回の活動を支えていただいた長尾亜紀氏を
はじめ、構想日本に感謝したい。
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2.《お知らせ》
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