【No.253】「地域医療」が直面している現実と挑戦 |富山大学附属病院 総合診療部 室林 治氏|
2006.06.16

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JIメールニュースNo.253  2006.6.16発行
「地域医療」が直面している現実と挑戦

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◆◆ 目 次 ◆◆
1.【「地域医療」が直面している現実と挑戦】
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1.【「地域医療」が直面している現実と挑戦】
室  林   治
(富山大学附属病院 総合診療部)
「地域医療」という言葉を聞いて、何を連想しますか? 田舎、僻地、診療
所、町医者……。実は医療者の間でも明確な定義はありません。強いて
言うと、「こんな医療があったらいいな」という地域のニーズに応えていく医
療が地域医療、と言えるのかもしれません。
そのような医療を志し「地域で働きたい」という医師は意外と多いのですが、
多くは別な道へと進んでいきます。私は山間診療所での勤務を経験しまし
たが、モチベーションを失いかねない壁に幾度も遭遇しました。
第一に、「地域医療やプライマリケア(初期診断・治療)は、専門医になれ
ない奴のする仕事だ」というような偏見があり、専門医に比べ低く見られる
風潮があります。学ぶべき知識や技術が膨大な割には、トレーニングでき
る施設が極端に少ないことも、これに拍車をかけています。
第二に、「社会的な認知度が低い」という現実があります。地域に出て「専
門は?」と聞かれた際に、「地域医療です」と答えても「?」という反応しか
返って来ません。
たとえば、医師4名の小病院に勤務していたある先輩は、「子供からお年
寄りまで診療し、予防医学を実践し、認知症の方を地域で支える」という、
文字通りの地域医療を展開していました。手術や専門医療が必要な際に
は、車で30分の所に位置する大病院を紹介していました。ところが、町長
が「外科手術ぐらい出来なくてどうする」と言い出したことから、折り合いが
悪くなり、その病院を去りました。その後、外科医を迎えたこの病院の経営
は大きく傾き、現在、閉鎖の話が浮上しています。
別の先輩にいたっては、村の人に「あの医者は都会で通用しなくなったん
で、こっちに来たんだ」と陰で言われていたと嘆いていました。
地域医療に携わっていると、最先端の医学知識から遅れをとると思われが
ちですが、実際にはインターネットやEBM(根拠に基づく医療とその実践の
ための方法論)の普及により問題ではなくなりました。事実、生活習慣病の
管理などは、大病院(3時間待ち、3分診療)の先生よりも、はるかにきめ細
やかで、妥当な医療を実践している先生が多いのです。
高度先進医療とはテクノロジーを結集したものだけとは、私は思いません。
患者個人や家庭、地域状況に応じて治療や接し方を合わせてくれる医療
のほうが、よっぽど高度で先進的ではないでしょうか。それが地域医療の
素晴らしいところだと、私は思うのです。
ただし、これらの問題解決には医師だけではなく、行政や保健、福祉など
といった様々な職種の人達や地域の住民と連携した、これまでの医療の
枠を越えたアプローチが要求されます。
私は、今年の4月より大学病院の総合診療部に勤務しはじめました。総合
診療部には、従来の臓器別専門診療科に該当しない訴えや問題を抱えた
方が多く受診されます。大学病院という制約はありますが、臓器や病気だ
けでなく、その人の背景、家庭や地域にも極力配慮した医療を提供したい
と考えています。
私にとっては初めての大学病院勤務なのですが、地域医療の充実のため
にも、まずは若い学生や研修医の皆さんに、これまでとは異なる視点で医
療を考えるきっかけを与えることができればと思っています。

*室林 治(むろばやし・おさむ)氏のプロフィール
自治医科大学卒。山間診療所などで勤務した後、地域医療振興協会にて
地域医療研修センターのスタッフを勤める。現在は、富山大学附属病院
総合診療部に勤務。
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