【No.393】今、なぜ、介護を考えることが必要なのか -後編-
2009.03.27

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JIメールニュースNo.393  2009.3.27発行
今、なぜ、介護を考えることが必要なのか -後編-
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◆◇ 目 次 ◇◆
1.【今、なぜ、介護を考えることが必要なのか -後編-】

≪TOPICS≫───────────────────────────

★「ワンクリックアンケート」実施中!
今回から、雇用不安シリーズとして、現状、そしてこれからの“雇用”
について、数回に分けて考えていきたいと思います。
【雇用不安1】派遣・非正規社員の雇用不安、問題の本質は?
(アンケート期間:2009/03/25(水) ~2009/04/06(月))
Q :あなたは、非正規労働者の派遣切り、雇い止めをめぐる雇用不安、
問題の本質はどこにあると思いますか?
↓     ↓     ↓
https://www.kosonippon.org/wp-manager/enquete/index.php?m_enquete_cd=60
構想日本のホームページにて、あなたのご意見お聞かせ下さい。

★ 代表加藤が民主党勉強会で事業仕分けについて講演しました!
3月25日(水)に開催された民主党主催の勉強会に構想日本代表
加藤が招かれ、事業仕分けについて講演をしました。
議員約60名を含む、計140名程度が出席しました。
講演の内容や会場の様子などは、こちらからご覧ください。
↓     ↓     ↓
http://www.dpj.or.jp/news/?num=15546

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1.【今、なぜ、介護を考えることが必要なのか -後編-】
特別養護老人ホーム・介護職員 M・K

■「今、なぜ、介護を考えることが必要なのか」を、「労働」の側面から
述べる
介護現場の人手不足は、メディアで報じられているように、賃金が
低いことが原因なのか。一般的にも、関係者の集まりにおいても、この
点ばかりが注目されがちだが、本当にそうなのか。私はそれだけでは片
手落ちだと考える。人手不足の本質は労働問題にある、というのが私の
認識である。
ある時、介護労働は産業革命の頃に戻ってしまったようだ、と思っ
たことがある。産業革命以降、労働運動等、人々がこれまで積み上げて
きた営為を、日本の介護はことごとく壊してしまった感がある。何のた
めに労働法があるのかを認識している関係者がどれだけいるだろうか。
仮にそのような認識があったとしても、実際のところ、労働法が尊重さ
れない現状が広くある以上、それはなきに等しい。他の業界においても
同じような状態であることを知らないわけではないが、そのことを容認
するわけにもいかない。まして介護はセーフティーネットとしての役割
がある。
以前、医療崩壊に関する講演を聞きに行った時、「あなたは、寝不
足のパイロットが操縦する飛行機に乗りたいか」というような話があっ
た。これは介護の現場にも当てはまる。多くのケアワーカーは、休憩も、
食事やトイレの時間も満足にとれず長時間労働に従事している。変則勤
務であれば、交通機関の関係上、家から職場までの距離も重要だし、不
規則な生活リズムになることから、慢性的な時差ぼけのような状態にな
ったり、不眠症のようになる者もいる。私も早番勤務の時はほぼ寝不足
か、あるいは全く眠れずに出勤したこともある。ケアワーカーは常に疲
弊しており、これは眠れたとしてもすぐに回復するものではない。年齢
が上がれば更に回復も遅くなるだろうし、若い人からも同じような話を
聞く。休日は疲労のあまりワーカー自身が寝たきりとなる。ワークライ
フバランスという言葉も虚しく響く。どの勤務にあたっても、心身とも
にパフォーマンスが十分に発揮できる状態とは言い難いのが現実である。
こうした健康不安を抱えながら、私たちは人命を預かる。介護が必
要であればある程、文字通りセーフティーネットであるはずのケアワー
カーがこのような状態でいいのだろうか。あるいは、このようなケアワ
ーカーに支えられることに不安を持たない人がいるだろうか。

こうしたことは、介護の質や専門性を巡る議論、あるいは仕事観を
巡る議論の中で、常に後回しにされがちである。しかし私は、介護問題
を論じる前に労働問題が論じられなければならないと考えている。我々
とて人間である。感情労働のことも踏まえて言えば、「聖人君子でもな
ければロボットでもない」のである。
時間、あるいは人手といったリソースが有限である以上、介護と労
働を少なくとも同列に扱わなければ、労働はいつまでたっても後回しに
され続け、そのままでは順番が回ってくることはない。そして残念なが
ら、現在もこのボタンのかけ違いは続いている。これを解消するには、
いちばん始めに立ち戻らなければならない。そうしない限り、時間は浪
費され続ける。
象徴的だと思うのは、雇用危機が叫ばれるこのご時世に、ケアワー
カーの離職が止まらないことである。専門教育を受けて働き始めたばか
りの若手や、フォーマルにもインフォーマルにも中核となる人材の流出、
あるいは、前述したように、雇用の受け皿として期待する声もあるが、
これまで述べてきたことを一因として、既に雇用が守られていない側面
がある。今後、外国出身のケアワーカーがどのように扱われるか、日本
の介護の質は意外なところから問われるのかもしれない。
もう一点、介護職場は「女性の職場」でもあることに言及したい。
女性の保護、特に、弱い立場となる「妊婦」に対してどのように振る舞
うのか。結論めいたことを言うと、前述した外国人の話と併せて、日本
の社会の質が問われている。
このようにして考えると、人を入れれば介護の人手不足は解消する
という単純な話にはならないことに気付く。バケツの底に穴が開いてい
るのに、いくら水を注いだところで水がたまるはずがない。全く意味が
ないばかりか、リソースの有限性を考えれば有害ですらある。外を歩い
ていて、自治体主導の就職面接会のポスターが掲示されているのを見る
たび、私はその思いを強くする。これは優先順位の問題であり、まずは
バケツの底に開いた穴を塞ぐことが先決であろう。
労働法に話を戻すと、法令順守がなされれば人の流出は一定程度防
げると思う。しかし、旧労働省の元幹部曰く、「労働基準監督署も人手
不足」という笑えない話を聞いたことがある。仮にここで雇用確保がさ
れ、体制が整ったとしても次の問題に直面する。現行の介護保険の法制
度と労働法の整合性がないのである。法令遵守を徹底した途端、介護現
場は今以上に立ち行かなくなってしまうだろう。このことについては、
ずっと先の話であり、これ以上は立ち入らない。

■おわりに
いま最も考えなければならないことは、「介護」は公共部門である
という点である。介護関係者においても、社会においても、この理解が
抜け落ちてしまっている。「介護」は閉鎖的なムラ社会と化しており、
公共性を失っている。最大の問題は、リソースは無限にあるという前提
に立っていることであり、それが更なる問題を引き起こしている。部分
的な正しさを追求するあまり、全体的な視点、社会的な要請が見えなく
なってしまっている。
介護の質と共に、健全な持続可能性を取り戻さねばならず、そのた
めにも社会のコミットメント、コントロールが欠かせない。まずは、
関心をもつこと。「介護」というセーフティーネットが、自分たちのも
のだという認識を持つことから全てが始まると私は考えている。

※ 本レポートは、メールマガジン「αシノドス」に掲載した文章を
再構成したものです。

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