【No.440】「金融の生態系」を守る政策を ―健全な中小企業や地域産業を育てるために―
2010.02.25

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J.I.メールニュースNo.440 2010.02.25 発行
「金融の生態系」を守る政策を
―健全な中小企業や地域産業を育てるために―
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「金融の生態系」を守る政策を
―健全な中小企業や地域産業を育てるために―
大東京信用組合 常務理事 柴橋英二
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銀行の業務の形態は、大きくは、メガバンクに代表される、資金の行き
来に関するサービスの規模や効率性を中心に勝負する類型と、信用金庫
や信用組合など地域の協同組織金融機関に代表される、地元企業とのつ
ながりを中心に展開する地域密着の類型に、分けられる。
この2つのタイプは従来、対象企業、貸出の仕方や収益のあげ方など、異
なる姿で業務を行い、それぞれ得意とする分野で棲み分けていく、いわば
“金融の生態系”が形成されてきた。
このなかで、信用組合は、恒常的な過少資本に悩む中小零細事業者に対し
て、長いつきあいや経営者との対話の中から得られる色々な情報を駆使す
ることで、その会社の資本に近い超長期の貸出に注力して業務展開を図っ
てきた。短期の金利で勝負するのではなく、うまくいったときには配当と
同じように金利をいただく、長いつきあいで、銀行・金融市場で一定の役
割を果たしてきた。
しかし、この10年あまりの間に、先述の生態系を越えた競争が起こり、
日本の金融機関はかなり淘汰され、その数は合併吸収で大きく減少した。
信用組合は、300を超えていたのが、約160へと半減した。
それでもなお、過剰な数のオーバーバンキングといわれ、規模と効率性を
追求する競争促進の指摘がなされ、お互いの体力を弱めることが少なくな
い。信用組合の身の丈に合った役割にも配慮がなされず多くが消えていけ
ば、その先には、概して同じようなサービスしかなくなるということにも
なりかねないが、それでよいのだろうか。
しかも、最近の政策・制度は、“金融の生態系”をますます撹乱するよう
なものと思えてならない。会計基準や「不良債権」の基準など、一律的な
ルールや尺度の適用を強いられるが、信用組合の現場の実態に即さず、本
意ではない対応をせざるをえないことが、ままある。
例えば、協同組織においては、出資者は投資家ではなく地域の利用者であ
り、出資金や信用組合の資産の時価がどうかというようなことより、信用
組合が貸出とともに何をしてくれるか、事業者とどのようなつきあいをし
てくれるかを見せることを、むしろ期待している。同時に、メガバンクに
中小企業金融を無理押しするような生態系への介入は、かえって日本の銀
行の世界戦略を弱めることにもなるのではと思う。
今の金融環境に大切なことは、業態内での切磋琢磨は必要であるが、金融
の生態系を見守りながら、そのなかでそれぞれが一層の機能発揮をしてい
くような手だてを考えることである。
小さくとも地元に長く親しんできた企業を大事にしたい。昔からの企業の
技術や文化を守り伝承していきたい。信用組合は、長い時間軸の評価尺度
をもって、ゆっくりとした成長と発展を築き、これを持続することを、我
が業態の使命と銘じている。
*柴橋英二氏のプロフィール
昭和41年、大東京信用組合に入組。総合企画室長等を経て、
平成13年、理事(総合企画部長)、平成16年、常務理事。
全国信用組合中央協会「信用組合経営研究会」委員等。

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