【No.542】小さなタネを巡る大きな問題
2012.02.23

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J.I.メールニュース No.542 2012.02.23発行

小さなタネを巡る大きな問題

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【1】 小さなタネを巡る大きな問題
野口種苗研究所 代表 野口 勲

【2】 第174回J.I.フォーラム 2月28日(火)開催

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【1】 小さなタネを巡る大きな問題
野口種苗研究所 代表 野口 勲
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「F1種」という言葉をご存知でしょうか。たとえ言葉自体を知ら
なくても、私たちは今日も食べているはずです。昨日も食べたでし
ょうし、明日も明後日も食べ続けるでしょう。実は「F1種」とは、
日頃私たちが目にしている野菜のタネのことです。

あまり耳慣れないと思いますが、タネには「固定種」と「F1種」
があります。かつて農家は自分で花や実からタネを採って蒔いてい
ました。このようにして、地域で何世代にも渡って育てられ、その
土地の環境に適応したタネのことを「固定種」と言います。タネを
採って蒔くのは当たり前と思うかも知れませんが、伝統野菜の一部
を除いて、固定種の野菜を育てる農家は今ではほとんど居なくなっ
ています。

では、私たちが毎日スーパーや八百屋で買って食べている野菜はど
うなのかというと、ほとんどが「F1種」と呼ばれるタネから育て
られています。F1種とは、異なる性質のタネを掛け合わせて作っ
た雑種の一代目のことです。雑種の一代目には「雑種強勢」という
性質が働くため、野菜の生育が良くなります。さらに、メンデルの
法則によって、野菜の大きさや形、収穫時期が揃うようになります。
要するに、F1種の野菜は規格が揃うので、大量生産、大量消費に
うってつけなのです。

しかし、魔法は「一代限り」です。F1種の野菜からタネを採って
蒔いても、二代目以降は親と同じ野菜ができず、品質がばらばらに
なってしまいます。結果として、F1種の野菜をつくる農家は、毎
年、種苗業者からタネを買い続けることになります。

種苗業者にとっては、F1種はまさに「金のなるタネ」です。一方、
農家にとっても、野菜を均質化することは市場で売れるための第一
条件なので、F1種は十分魅力的です。双方の利害が一致し、F1
種をつくるための技術は日々進歩を遂げてきました。

F1種は人工的に作る雑種なので、手を加える前に野菜が自分の花
粉で受粉してしまっては困ります。そのため、最初は人が手作業で
雄しべを取り除いて、自家受粉できないようにしていました。しか
し、次第に技術が進歩し、最終的には雄性不稔(ゆうせいふねん)
という性質を利用する方法へと変わっていきました。これはミトコ
ンドリア遺伝子の突然変異によって雄しべを持たずに生まれてきた
個体の性質を利用する方法で、簡単に言えば、野菜を人工的に無精
子症にする技術です。この技術によって、手作業に比べて大幅に人
件費を削減することが可能になりました。

しかし、私はこの「F1種」を巡って、大きく二つの問題を懸念し
ています。

一つ目は、F1種に限りませんが、世界のタネ市場が寡占状態にな
っていることです。現在、モンサント、デュポン、シンジェンタ、
ダウ・ケミカルといった数社の大企業が、世界の種苗市場をほぼ独
占しており、遺伝子組換え作物に関する特許もほとんど押さえてし
まっているのです。これでは種苗業者に対して農家があまりに従属
的ですし、国際ビジネスや食の安全保障という観点からも心配があ
ります。

二つ目は、「雄性不稔のF1種」を食べ続けることの健康への影響
が未知数であることです。今後、私たちが食べている野菜のほとん
どが、雄性不稔のF1種になると言っても過言ではありません。子
孫をつくれない野菜ばかりを食べていて、人間に影響がないなんて
あり得ないのではないでしょうか。私は心配で仕方ありません。

安いもの、便利なものがいい、という価値観を私たちが持ち続ける
限り、F1種の流れは止まりません。しかし、現段階では、そもそ
もほとんどの人が固定種とF1種の違いを知らないのです。この度
のJIフォーラムでは、この小さなタネを巡る大きな問題について、
皆さんと一緒に考えたいと思います。

野口 勳(のぐち・いさお)
1944年東京都青梅市生まれ。親子3代にわたり在来種・固定種、全
国各地の伝統野菜のタネを扱う種苗店を埼玉・飯能市で経営。店を
継ぐ以前は手塚治虫氏の担当編集者をしていたという異色の経歴を
持つ。2008年「農業・農村や環境に有意義な活動を行ない、成果を
上げている個人や団体」に与えられる山崎記念農業賞を受賞。著書
に『タネが危ない』(日本経済新聞出版社)、『いのちの種を未来
に』(創森社)。

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【2】 第174回J.I.フォーラム 2月28日(火)開催
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タネが危ない

-日本の食料、農業、そして私たちの生活は大丈夫か-

かつて農家は自分で花や実からタネを採り、植えていました。今は
「一代限りのタネ」を毎回タネ屋から買うのが普通です。これは何
を意味するのでしょうか。野菜など農作物の画一化、世界的なタネ
ビジネス資本による農業支配、長期的には健康に対する影響など様
々な問題が考えられます。タネという小さな、しかし、私たちの生
存の基盤とも言えるものから私たちの生活、食の安全保障などにつ
いて考えます。

○日時: 平成24年2月28日(火)

○会場: 日本財団ビル2階・大会議室
港区赤坂1-2-2 TEL 03-6229-5111
http://www.nippon-foundation.or.jp/org/profile/address.html
※セキュリティの都合上、本案内状を会場1階で提出して下さい。

○開演: 午後6時30分(開場:午後6時00分)

○ゲスト: 野口 勲(野口のタネ/野口種苗研究所)
阮 蔚(ルアン・ウエイ)
(株式会社農林中金総合研究所 基礎研究部 主任研究員)

コーディネーター: 加藤 秀樹(構想日本 代表)

○主催: 構想日本

○定員: 160名

○フォーラム参加費: 2000円(シンクネット・構想日本会員は無料です)

○懇親会参加費: 4000円
ゲストを囲んで、下記の会場で懇親会を開催いたします。
「頤和園(いわえん)溜池山王店」
港区赤坂1-1-12 TEL 03-3584-4531
http://www.iwaen.co.jp/tameike

※懇親会をキャンセルされる場合は必ずご連絡下さい。
直前のキャンセルの場合、キャンセル料を申し受けます。

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参加ご希望の方は、【2月27日(月)まで】に出欠の是非を、下記の
メールアドレスにお申し込み下さい。
forum@kosonippon.org

お名前

所属

ご連絡先

懇親会に     参加する      参加しない
※懇親会直前キャンセルの場合は、キャンセル料を申し受けます。

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*参加申し込みに関するお問い合せは、
事務局 木下明美まで。TEL 03-5275-5665
*内容に関するお問い合せは、
フォーラム担当 西田陽光まで。TEL 03-5275-5607
*今後のスケジュール等、詳細はHPをご覧下さい。
https://www.kosonippon.org/wp-manager/forum/index.php
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