【No.593】南相馬から日本の近未来を見る |南相馬市立総合病院医師    原澤 慶太郎 氏  亀田メディカルセンター副院長  小松 秀樹氏|
2013.03.07

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J.I.メールニュース No.593 2013.03.07発行

南相馬から日本の近未来を見る

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【1】南相馬から日本の近未来を見る
南相馬市立総合病院医師    原澤 慶太郎
亀田メディカルセンター副院長  小松 秀樹

【2】第187回J.I.フォーラム 3月25日(月)開催

【3】議員セミナーのご案内  4月 4日 (木)
「未来志向」の地方議員・議会を目指して
~仕分けの手法はこんなに使える!~

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【1】 南相馬から日本の近未来を見る
南相馬市立総合病院医師    原澤 慶太郎
亀田メディカルセンター副院長  小松 秀樹

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南相馬市では、低線量被ばくに対する不安、さらには被ばくに
対する差別・偏見への懸念のため、若い世代が県外に避難した
まま戻らず、高齢化率は1年間で26%から33%に跳ね上がった。
除染は大きな成果を上げるに至っていないが、フィルムバッジ
による外部被ばくの測定と、ホールボディカウンター(WBC)に
よる内部被ばくの測定を通じて、被ばくに対する向き合い方が
確立されつつある。外部被ばくについては、空間線量の多い地
域への居住制限、地域の空間線量の細かな計測、実際の個人ご
との被ばく量の測定で対応可能である。また、内部被ばくを有
する市民は時間経過と共に、大幅に減少した(3%以下)。安
全性が検査で証明されている食品を食べている限り、健康被害
が懸念されるような新たな内部被ばくは生じないことが分かっ
てきた(1)。

しかし、こうした被ばくデータも、被ばくをめぐる対立を落ち
着かせるに至っていない。被ばくによる健康被害の予測や子供
の避難についての意見の違い、居住区域による補償額の違いが、
従来の政治的対立と絡み合って、市民分断の原因になっている。
原子力災害に伴って副次的に起きた様々な問題が、被ばくその
もの以上に市民生活の障害になっている。

仮設住宅住民では、孤立した高齢者が、生活習慣病を悪化させ
ている。先日、ひとりの高齢男性が広範な脳出血を起こし、救
急外来に搬送された。通報したのは、夫の異変に気づいた重度
の認知症がある高齢の妻であった。「夫の元気がない」彼女が
通報したのはかなり時間が経ってからだった。数日後、男性は
亡くなった。彼女は、これまで献身的に介護してきた夫を失っ
た。彼女を受け入れてくれる介護施設は見つかっていない。長
男家族は、震災後遠方に避難し新たな生活を始めている。この
夫婦は、新たな生活場所で孤立しており、彼女を迎え入れる余
力はなかった。介護施設は、小中学生の母親たち世代によって
支えられてきた。彼女たちが子供と一緒に避難したため、南相
馬の介護施設の多くは存続できなくなったのだ。

もうひとり、外来通院されている60代男性。薬を飲んだり、
飲まなかったりで、毎日パチンコに通っている。震災後に始ま
った習慣だ。以前は、農業に従事していた。震災関連死で妻を
亡くし、田畑を失い、家も失い、生きるよすがだった孫たちも
遠方に避難してしまった。生きている意味が分からない、そう
語る彼に、いくら薬を処方しても問題は解決しない。

私たちは、南相馬で発生している多くの問題に対応すべく、様
々な試みを行っている(2)。「引きこもりのお父さんを引き
寄せようプロジェクト、通称HOHP(ホープ)」では、日曜大工教
室を病院主催で始めた。多くの人たちとふれあう中で、自分の
居場所を見出してもらいたいと願っている。

原子力災害により、人為的に急速進行性の高齢化社会が生み出
された南相馬市は、まさに20年後の日本の姿である。日本全体
で、2025年には47万人にも及ぶ介護難民が発生するという試算
がある。食物を飲み込めなくなった高齢者に対する胃瘻や経管
栄養の普及は、日本人の寿命が限界近くまで延びたことを示す。
治療を目的とする病院医療では高齢への対応はできない。
人生の終末期が悲惨になったのでは、寿命が延びても喜べない。
国策として、在宅医療を推進する気運はあるが、在宅医療は費
用対効果が悪く、今後必要とされる膨大な量のサービスを提供
できない。そもそも、独居高齢者には対応できない。

制度以上に問題なのが、介護を支える人材不足である。高齢者
を介護業界に迎え入れようという考えがある。シルバー人材派
遣のような形で、往診・訪問看護の間の時間を埋めることは可
能かもしれない。しかし、経験のない高齢者が介護の中核を担
うのは無理がある。高齢者の活躍の基本は長年の経験の蓄積を
可能な限り、長く活かしてもらうことであろう。

問題の核心は、高齢者を支える若者に自信と誇りを持って働い
てもらうこと、さらに、子供を産み育てるに足る給与を用意す
ることである。高等教育を家計のためにあきらめさせるような
ことがあってはならない。教育は高齢者への給付より優先度が
高い。高齢化は高齢者が増えることではなく、子供が減少する
ことである。幸せな老後の必要条件は衣食住と排せつの確保で
ある。しかし人間関係の中での居場所の確保がなければ、幸せ
に人生を終えることは不可能である。状況は極めて困難であり、
簡単に解決策が見つかるとは思えない。多くの現場で、様々な
職種、外部者が知恵を絞って、多様なアイデアを試みる必要が
ある。悲惨な老後は人生の価値を貶める。悲惨な老後を強いる
社会には価値がない。

【参照】

1)M.Tsubokura, et al. Internal Radiation Exposure After
the Fukushima Nuclear Power Plant Disaster,
JAMA.2012;308(7):669-670
2) 一般社団法人THE FUTURE.LAB
http://thefuturelab.jimdo.com/

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原澤 慶太郎

南相馬市立総合病院 在宅診療部 原澤慶太郎

亀田総合病院
慶應義塾大学医学部卒、外科専門医、元心臓血管外科医。
超高齢化社会の急性期医療に身をおく中で、地域医療が抱え
る社会的問題への挑戦が、医師にとって最大のフロンティア
であると確信、医師7年目に家庭医へ転職。南相馬市応急仮
設住宅での訪問予防接種事業、在宅診療部設立など、南相馬
でこれまでに13のヘルスケア関連事業を手掛け、復興庁支
援事業に認定される。ICカードによる医療福祉ローカルマイ
ナンバー制度の導入も実現した。原子力災害を受けた南相馬
の現場から、この国の新たな医療、ヘルスケアの可能性を模
索している。

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小松 秀樹(こまつ ひでき)

東京大学医学部卒業。東京都立駒込病院勤務、山梨医科大学
助教授、虎の門病院泌尿器科部長を経て、現在亀田メディカ
ルセンター副院長と泌尿器科顧問を兼務。

著書に「慈恵医大青戸病院事件 – 医療の構造と実践的倫理」
(2004年、日本経済評論社)「崩壊―『立ち去り型サボタージュ』
とは何か」(2006年、朝日新聞社)、「医療の限界」(2007年、
新潮新書)がある。

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【2】 第187回J.I.フォーラム 3月25日(月)開催
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生活困窮に対する支援の本質を考える

生活保護・就労支援など、日本には生活困窮者に対して様々な、
そして複雑な支援のしくみがあります。それについて、まだまだ
足りない、いや、やりすぎだ、お金がないなど、政治もメディア
も、専門家の意見も大きく揺れています。本当の問題はどこにあ
るのか、現場から語って頂きます。

○日時:平成25年3月25日(月)

○会場: 都市センターホテル 701号室

○ゲスト:奥田 知志(NPO法人北九州ホームレス支援機構 理事長)
生水 裕実(野洲市 市民部 市民生活相談室主査)
高沢 幸男(インクルージョンネット よこはま理事
/寿支援者交流会 事務局長)
田中 尚輝(NPO法人市民福祉団体全国協議会専務理事)
山根 晃 (足立区 福祉部 北部福祉事務所長)

コーディネーター: 加藤 秀樹(構想日本 代表)

※ 冒頭で現場の声をDVDで紹介します。
解説:福田 房枝(生活困窮者再チャレンジ支援室長)

※ 詳細、お申し込みはこちらから
https://www.kosonippon.org/wp-manager/forum/detail.php

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*参加申し込みに関するお問い合せは、
事務局 木下明美まで。TEL 03-5275-5665
*内容に関するお問い合せは、
フォーラム担当 西田陽光まで。TEL 03-5275-5607
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【3】議員セミナーのご案内  4月 4日 (木)

「未来志向」の地方議員・議会を目指して
~仕分けの手法はこんなに使える!~
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どの自治体でも収入が減る一方で福祉、介護などにかかるお金は
増加の一途です。この傾向は、実は首都圏など大都市で、今後一
層顕著になります。その中で、住民の期待に応え信頼される地方
自治を実現するには議員、議会の力が不可欠です。そのための実
践的な手法を身に付けるためのセミナーを開催します。

構想日本が2002年から行っている事業仕分けで培ってきたノウハ
ウは、そのための大きなヒントになります。「事業シート」「外
部、現場の視点」「市民による事業評価」などは様々な行政や政
治に応用できます。
具体的な体験を通して身に付けて頂きたいと思います。議員活動
のバージョンアップのためのスキルが詰まっています。是非ご参
加ください。

【日時】平成25年4月4日(木)13:30 ~17:00 (開場13:00)

【会場】憲政記念館

【内容】1.講演 「住民から頼られる議員、議会のために」
加藤秀樹(構想日本代表)

2.仕分け手法の具体的な使い方、効果
伊藤伸(構想日本ディレクター)

3.ワークショップ「模擬事業仕分け」など

4.質疑・意見交換

【対象】地方議員(議員以外の方のオブザーバー参加は可能)

【定員】80名(要事前予約)

【参加費】7,000円(オブザーバーは5,000円)

【問い合わせ】 西田/伊藤/田中 TEL: 03-5275-5607

※ 詳細、お申し込みはこちらから
https://www.kosonippon.org/wp-manager/shiwake/municipality_sort/detail.php?m_project_cd=1102

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