メールマガジン

【No.660】脳科学から見た子ども虐待 (前編)

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J.I.メールニュース No.660 2014.06.26発行

「脳科学から見た子ども虐待 (前編)」

福井大学 子どものこころの発達研究センター 教授

友田 明美

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【1】<巻頭寄稿文>

「脳科学から見た子ども虐待 (前編)」

福井大学 子どものこころの発達研究センター 教授

友田 明美

【2】<お知らせ>

(1)第202回J.I.フォーラム  7月30日(水)開催

「持続可能な医療を考える」

(2)構想日本× PHP総研

「現場みらい塾」~地域のリーダー育成プログラム~

(3)Yahoo!ニュース記事更新情報!

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【1】 「脳科学から見た子ども虐待 (前編)」

福井大学 子どものこころの発達研究センター 教授

友田 明美

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少子化が深刻化する中、子ども虐待は、みんなで考えて行くべき重要な問題である。子ども虐待が最初に医学的問題として取り上げられたのは約50年前で、当時は身体的虐待が対象であった。現在では、性的虐待、暴言や両親間の家庭内暴力(DV)目撃による心理的虐待、子どもの養育を放棄してしまうネグレクトなどさまざまなタイプの虐待が知られている。日本では、子どもの数が減っているにも関わらず、児童相談所の虐待相談件数は年々増加しており、深刻な事例として対応されている。しかも虐待をしているのは6割弱が実の母親で、3割が父親である。

私は大学病院で「子どものこころ診療部」の小児科医をしているが、被虐待児症候群や、小さいときに親と愛情のキャッチボールがきちんとできない状況で育った子どもにみられる愛着障害の症状を呈する子どもが増え、危機感を感じている。このような子どもは、幼児期には衝動や不安をうまくコントロールできずに切れやすく、パニックを起こしやすい多動性行動障害、進展すると最終的に人格が変わってしまう「解離」が起こる。思春期になると抑うつ症状や、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の一つとして、ささいなことで夜眠れない警戒待機状態、過覚醒がみられる。また、自分だけが認められていないという被害念慮がつきまとい、派手な問題行動を起こしてしまう。性犯罪の被害者にも加害者にもなりうる。それからDV、学校への不適応、薬物やアルコールへの依存なども起こってしまう。このように子ども時代に受けた虐待の影響は、人生のあらゆる時期にさまざまな形で表れるのである。

子ども虐待と成人になってからの精神的トラブルの間には強い関連があることがこれまでの研究でわかってきた。抑うつ状態に陥ったり、ささいなことでひどく不安になったり、自殺をたびたび考えるようになる場合もある。外に向かう場合には、攻撃的・衝動的になって反社会的行動に出たり、薬物濫用・依存症となって現れたりする。

近年まで心理学の研究者たちは、小児期に受けた虐待の被害者は社会・心理学的発達を抑制し、精神防御システムを肥大させて、大人になってからも自己敗北感を感じやすくなると考えていた。つまり精神的・社会的な発達が抑えられて、大人になっても“傷ついた子ども”のままになってしまうと考えられ、虐待によるダメージは基本的には“ソフトウエア”の問題とされてきた。治療すれば再プログラムが可能で、つらい体験に打ち克つよう患者を支えれば治せる傷と捉えられてきた。

しかし発達精神病理学の先行研究では、小児期の虐待で受けた身体的な傷がたとえ治癒したとしても、発達過程のこころに負った傷は簡単にはいやされないことがわかってきた。私たちは米国ハーバード大学と共同で、ネグレクトや性的虐待、不適切な養育環境、暴言による虐待、両親間の家庭内暴力(DV)にさらされることがヒトの脳に与える影響を調べ、脳の容積などが変容する現象を報告してきた。

小児期に激しい虐待を受けると、脳の一部がうまく発達できなくなってしまう。そういった脳自体に傷を負ってしまった子どもたちは成人になってからも精神的なトラブルで悲惨な人生を送ることになる。報告では虐待による薬物濫用、うつ病、アルコール依存、自殺企図への進展は50?78%のリスクがあると言われている。

被虐待児の脳がいかに傷ついていくのか、さまざまなタイプの子ども虐待の脳発達に及ぼす影響について、被虐待と脳発達の感受性期との関係も含めて概説する。

1. 性的虐待による脳への影響

小児期に性的虐待を受けた経験がある米国人女子大生23名と、全く被虐待歴がなく精神的トラブルを抱えていない健常な女子大生14名を被験者とし,脳形態(脳皮質容積)の違いをVoxel Based Morphometry※1(以下,VBM)とフリーサーファー法(大脳表面図に基づくニューロイメージング解析)を用いて比較検討した。

被虐待群では、健常対照群に比べて両側の一次視覚野に有意な容積減少を認めた。(特に左の舌状回と下後頭回:図 ※2URL参照)

2. 暴言虐待による脳への影響

親が暴言を子どもに対して日常的に浴びせる行為は、精神的虐待として米国では高頻度で通報される。こうした体験をもつ子どもには過度の不安感、泣き叫び、おびえ、睡眠障害、うつ、引きこもり、学校にうまく適応できないなど、さまざまな問題がみられる。

親からの暴言による虐待が、脳にどういった影響を及ぼしていくのかを検討するため、高解像度MRIのVBM法を行った。

虐待を経験した18~25歳の米国人男女21名と、精神的トラブルを抱えていない健常対照者19名とを被験者に、脳皮質容積の比較検討をした。

興味深いことに,被暴言虐待群では健常対照群に比べて、聴覚野の一部である左上側頭回灰白質の容積が14.1%も増加していた(図 ※2URL参照)。また暴言の程度をスコア化した評価法によると、左上側頭回灰白質容積は両親からの暴言の程度と正の関連を認めた。すなわち,殴る,蹴るといった身体的虐待や性的虐待のみならず、暴言による精神的虐待も発達過程の脳に影響を及ぼす可能性が示唆された。

※1Voxel Based Morphometry 精神神経疾患の患者の脳容積の減少や増加など、脳形態の特徴を解析する方法。
※2 http://www.kosonippon.org/cp-bin/wp/documents/2015/mail/20140626mg660.pdf

(後編に続く)

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友田 明美  (ともだ あけみ)

熊本大学医学部医学研究科修了(1987年)。 医学博士。熊本大学附属病院発達小児科助教、 同小児発達学分野准教授を経て、現在、 福井大学子どものこころの発達研究センター教授。大阪大学大学院連合小児発達学研究科福井校教授、福井大学附属病院子どものこころ診療部副部長および生理学研究所客員教授兼任。著書:「新版 いやされない傷?児童虐待と傷ついていく脳」(診断と治療社、 2012年)「子どものPTSD」(診断と治療社、 2014年)など。

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【2】(1)第202回J.I.フォーラム  7月30日(水)開催
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「持続可能な医療を考える」

かつての感染症中心から生活習慣病への変化などを背景とした患者のニーズや行動の変化、それらに伴う医師や病院の対応の変化、健康管理が困難になったこと、高齢化に伴う医療、介護を一貫してみていくことの必要性、そして急増する医療費に伴う財政問題など、日本の現在の医療制度はサステイナブルではなくなりつつあります。

構想日本は現場の医者や研究者と議論を重ね、この課題に対する有力な方法として「地域健康管理医」を軸とする医療供給体制の抜本的な改革を考えました。これは制度と現場の実践の両サイドから進めていく必要があります。

医者、学者、国など各分野のエキスパートにお集まりいただき、大いに議論します。

○日 時 :平成26年7月30日(水)18:30~20:30(開場18:00)
日程変更しています。

○会 場 :アルカディア市ヶ谷 鳳凰の間  千代田区九段北4-2-25
TEL 03-3261-9921

※いつもと場所が違います。ご注意ください。

○ゲスト :土屋 了介(神奈川県立病院機構 理事長)

西村 周三(医療経済研究機構 所長) ほか

○コーディネーター:加藤秀樹(構想日本代表)

○定 員 :120名

○参加費 :一般 2,000円 / 学生 500円
(シンクネット・構想日本会員は無料です)
※学生の方は受付にて学生証をご提示ください。

○懇親会参加費 : 4,000円(ご希望の方は懇親会参加と明記してください)

※ゲストを囲んで懇親会を開催いたします。

※フォーラムへの参加はHPのフォームから、もしくはこのメールに
ご返信をお願いします。
( http://www.kosonippon.org/cp-bin/wp/forum/regist.php?m_forum_cd=326 )

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(2) 「現場みらい塾」~地域のリーダー育成プログラム~

地域のリーダー育成プログラム「現場みらい塾」が始まりました。

6/21,22(土、日)に実施した第1回は「どのような未来が起こり得るか」というテーマで参加者間で自由に議論する「ワールドカフェ」、元我孫子市長の福嶋浩彦さんの「自治とは何か?」、構想日本代表加藤の「公は官か?」など、非常に内容の濃い2日間でした。

少し内容をご紹介します。

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第2講「自治とは何か」福嶋浩彦さん(中央学院大学教授、前我孫子市長、前消費者長官)

「自治とはお金をもらうことではない。私が(私たちが)責任をもってやること。権限をくれという人もいるが違う。自治体はいまある権限をほとんど使っていない」

「2000年の地方分権一括法制定以降、通達はなくなった。通知はあくまでも技術的助言。強制力はない。問題になるのは法律の解釈。自治体はよく官庁に聞く。官庁は一般論は言うが個別の解釈はそれぞれの自治体にゆだねることが多い。しかし自治体は結論を欲しがる」

「現行法では国の言うことを自治体が聞く必要はないことになっている。是正の要求をするのは自治体ではなく国。国の要求が納得いかなければ「国地方係争処理委員会」に提訴すれば良い。そこまで揃っているのに、果たして今自治体はそれだけの権限を使っているか」

「我孫子市朝時代、介護保険導入時に厚生省の要介護認定システムがおかしかったので、我孫子は独自のシステムを使おうとした。厚生省からすぐに独自のシステムを使うなと言ってきた。職員は厚生省には独自システムを使わないと言っておいて実際には使おうと言っていたが」

(ディレクター伊藤の実況ツイートより。続き及び他の講義の様子はこちら(http://togetter.com/li/684950)からご覧いただけます。)
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第2回は「子ども医療費無料化措置の是非」をテーマにディベートを行い、第3回は自らの事業を仕分けの目線で振り返る「模擬事業仕分け」を行います。座学だけではなく体験しながら吸収してくことに主眼を置いています。

第2回、第3回のみのご参加も可能です。
主に自治体職員を対象としていますが、地方議員や民間の方など、行政関係者以外の方のご参加も大歓迎です(各回単発の参加も受け付けています)。

○日 時 :【第2回】平成26年7月 5日(土) 6日(日)
【第3回】平成26年7月26日(土)27日(日)
※いずれも土曜日13時~18時、日曜日9時半~15時半
※各回のみのご参加も可能です。ご相談ください。

○場 所 : 各回、PHP研究所 2階ホール
(東京都千代田区一番町21番地 東急ビル)

○参加費 : 【各回参加】1万2,000円 (食事、宿泊費別)

○主 催 : PHP総研、構想日本

○参加申し込み:PHP総研ホームページ
(http://research.php.co.jp/event/2014/06/21.php)よりお申し込みください。

お問い合わせは PHP総研:今井 TEL 03‐3239‐6222
構想日本:伊藤/田中 TEL 03‐5275‐5607 まで
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(3)代表加藤のYahoo!ニュース記事更新情報!
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代表加藤秀樹が、Yahooニュースにオーサーとして投稿している記事が更新されました。ぜひ御覧ください。

代表 加藤秀樹

◇5月2日『新国立競技場の建て替えは将来世代に誇れることなのか』
http://bylines.news.yahoo.co.jp/katohideki/20140502-00035003/

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