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【No.710】「ヤシナヒビト ―看取る主体は誰なのか―」 |ものがたり診療所所長  佐藤 伸彦氏|

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J.I.メールニュース No.710 2015.06.18 発行

「ヤシナヒビト ―看取る主体は誰なのか―」

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【1】<巻頭寄稿文>

「ヤシナヒビト ―看取る主体は誰なのか―」

ものがたり診療所所長  佐藤 伸彦

(今月のフォーラムゲストです)

【2】<お知らせ>

(1) 第213回J.I.フォーラム  6月25日(木)開催

「老・病・死を考える」

(2) 地方議員セミナー 7月3日(金)、 4日(土)開催

(3)「現場みらい塾」第2期 開催中、第3期 募集中

(4) Yahoo!ニュースオーサー記事更新!

【特集】<国立競技場の建て替え>

今、指摘されている問題点を、あらためて見なおしてください。

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【1】 「ヤシナヒビト ―看取る主体は誰なのか―」

ものがたり診療所所長  佐藤 伸彦

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「看取り」または「看取る」という言葉を10年ほど前はよく使ったのだが、最近あまり自分の立ち位置としては使わないようになった。

多くの人の最期に関わってきた中で、看取る主体は誰なのかを考えた時、それは「関係性のあるものたち」に与えられた言葉なのだろうと思う。

私たち医療・介護従事者も関係性のあるものに括られることになるのだが、家族や親戚や友人とはその濃さが違う。もちろん家族の中でも関係性の薄い人はいるだろう。しかし、最期の数ヶ月、数年間、「医療関係者」として関わった私たちが声だかに「看取る」という言葉を使うことには自省的にならなければならない。

関係性の濃淡は決して時間の多少でないことも分かった上で、敢えて簡単に「看取る」という言葉を使うことは避けたいと思う。

では、私たちが行っている、終末期の人に関わる一連の「おこない」をなんと呼べば良いのだろうか。 今それを端的に表す言葉を持ち合わせていない。

日本民俗学の大御所新谷尚紀氏は、新著『葬式は誰がするのか』の中で、本来は血縁や地縁でおこなってきた死者を見送る行為が、現在は葬祭業者にお金という対価で代行してもらう「無縁」社会になっていることを指摘する。

そして、以下のようにナラティブホームの活動を考察してくれていた。

『そのような人たちの活動に対して、医師や看護師や介護師などという呼称ではとうてい表せない世界がある。

そこで、それぞれの人の「生」をそれぞれかけがえのないたいせつな「生」としてその人が生きている限り支える人たち、それをやりがい、よろこびとしている人たちという意味の言葉として浮かんでくるのは、「支え人」、「生き添い人」などという言葉である。

それに近い言葉を民俗伝承の中にさがしてみると、「養い親」に対する「養い子」という言葉がある。

ただし、この佐藤医師たちスタッフは、それぞれの終末期高齢者の子供ではないから「養い子」というのはむずかしい。そこで考えつくのは「養い人」=「ヤシナヒビト」という言葉である。

このナラティブホームものがたり診療所の人たちのような、血縁、地縁、無縁、という枠組みを超えたヒューマニズムの世界、ヤシナヒビトたちの世界が存在し続けているにちがいないということである。幼児や高齢者に手を差し伸べる養い親と養い人、歴史を通貫する「ヤシナイオヤとヤシナヒビト」の存在、それがここに提出する一つの仮説である。』

100%人は死ぬ。そんな当たり前の現実の前に、私たちは素直にならなくてはいけない。

その時、良い最期(死)を演出するような「看取り」は何か間違っている。

良い死、尊厳ある死、平穏な死が、目標としての、目指されるべき死としてそこにあるではない。そのために、私たちは食べるのではない。食べさせるのではない。

最後の最期まで、呼吸がなくなり、心臓の鼓動がとまるまで、私たちは生きているのである。

その「生」を生ききることを支えるために、私たちはいるのではないだろうか。

ものがたり診療所のスタッフがITを利用した、実際のやりとりを見ていただきたい。

看護師
「Aさん。血圧77/mmHg 触診。尿量100ml、声かけに微かな反応あり。奥様にも来て頂きました。チアノーゼが一段と拡がってきました。うつろな表情で、呼吸も努力様から下顎様です。昨日夕方、佐藤先生より、本日も長男さんにお話がありました。」

言語聴覚士
「お部屋にアイスクリームがあります。必要あればお使いください。」

看護師
「わかりました。ありがとうございます。」

看護師
「Aさん、今朝まで浅い呼吸で経過され、早朝より奥様が傍でみまもりをされていました。◯時10分、奥様見守りの中、呼吸が止まりました。佐藤先生にて死亡診断され、10時半頃より入浴して頂き、12時頃にお帰りになります。最期に、奥様よりアイスクリームを差し上げて頂きました。」

言語聴覚士
「看護師さん、佐藤先生、ありがとうございました。奥さまにとって、悔いの残らない時間であったことを願うばかりです。」

彼女たちのこの淡々としたやり取りの中に、「ヤシナヒビト」としての存在の深さを私は感じざるを得ない。

行為としての看取りではなく 最後の最後まで生き抜く生を支える存在としての「ヤシナイビト」は、死への過程が特別な事ではなく、まったく当たり前の日常に回帰することを教えてくれる。

人の死は日常なのである。

参照メルマガ 「ひとりひとりの物語 ~これからの終末期医療~」 http://www.kosonippon.org/cp-bin/wp/mail/detail.php?id=717

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佐藤 伸彦 (さとう のぶひこ)

1958年東京生まれ。富山大学薬学部、医学部卒業。成田赤十字病院内科、麻生飯塚病院神経内科を経て高齢者医療に携わり、市立砺波総合病院地域総合診療科部長を経て、平成21年4月に医療法人社団ナラティブホー ムを立ち上げ、平成22年4月1日「ものがたり診療所」を開設。平成24年は度厚生労働省在宅医療連携拠点事業所として地域医療と終末期医療をキーワードに包括チーム医療を実践。ナラティブホームの物語」を医学書院から2015年3月に刊行。
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【書籍のご案内】

★「ナラティブホームの物語: 終末期医療をささえる地域包括ケアのしかけ」医学書院  佐藤 伸彦 著
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*みなさんのご意見をお待ちしています。(800字以内でお願いします)
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いただいたご意見はバックナンバーと共に「読者の声」として以下に掲載しています。
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【2】(1)第213回J.I.フォーラム 「老・病・死を考える」 開催

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仏教では、生老病死は人間が避けられない「四苦」とされています。しかしつい最近まで、日本社会全体としては四苦は片隅に置かれ、経済成長や豊かさの追求が中心課題でした。

ところが10年ほど前から、日本社会全体に四苦が重くのしかかってきました。生は少子化として。老病死は医療・介護という形で。65歳以上の日本人が人口の1/4を超えました。個人として老病死にどう対するかが、今や社会全体の大問題です。

「患者の葬儀に参列する医師」の佐藤さん、死後のことを扱ってきた僧侶の世界から医師になった対本さん。お二人ならではのお話を語っていただきます。

◯日 時:平成27年6月25日(木)18:30~20:30(開場18:00)

◯会 場:日本財団ビル2階 大会議室  港区赤坂1-2-2 TEL 03-6229-5111

◯ゲスト:佐藤 伸彦(ものがたり診療所所長)

対本 宗訓(僧医、リンデンクリニック院長)

◯コーディネーター:加藤 秀樹 (構想日本 代表)

◯主  催:構想日本

◯定  員:160名

◯参加費:一般 2,000円 / 学生 500円 (構想日本会員は無料です)
※学生の方は受付にて学生証をご提示ください。

◯懇親会参加費:4,000円(ご希望の方は下記懇親会参加に○をつけてください)
※ゲストを囲んで、下記の会場で懇親会を開催いたします。
「頤和園(いわえん)溜池山王店」
港区赤坂1-1-12 TEL 03-3584-4531

※フォーラムへのご参加は6月24日(水)18:00まで info@kosonippon.org  にお願いします。

お申し込みはこちらから http://www.kosonippon.org/cp-bin/wp/forum/index.php

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(2)地方議員セミナー 7月3日(金)、 4日(土)開催

今こそ議員が地方創生の主役に
~自治体の課題把握と解決のための実践講座~

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地方創生など、日本中で人口減少と地域の活性化に向けた取り組みが始まりました。一方、多くの自治体の財政状況は危機的です。今の施策の何を捨て、何を残すかが迫られているのです。もはや行政に任せておける時代ではありません。議員、議会が主導すべき時代です。また、これまで以上に住民に納得してもらうことが大事になります。

そのための基礎となる自治体の財政分析、実施事業のチェック、そして住民との合意形成のし方を実践的に身につけるセミナーを開催します。

新人議員からベテラン議員まで、これから大いに力をふるっていただくうえで、必ず役に立つ内容です。ぜひご参加ください。

【日 時】 平成27年7月3日(金)13:00~17:00、4日(土) 9:30~16:00

【会 場】 構想日本 会議室 (東京都千代田区平河町2-9-2 エスパリエ平河町3F)

※地図 http://www.kosonippon.org/cp-bin/wp/cp-bin/wordpress/wp-content/uploads/2015/03/unnamed.png

【内 容】<3日(金)>

「住民に納得してもらうには」 加藤秀樹(構想日本)

「政策を実現させるには(仮)」 穂坂邦夫(元志木市長)

懇親会(参加費別)

<4日(土)>

演習「財政状況をチェックするための決算統計の活用方法」 川嶋幸夫(構想日本)

「決算審査への事業仕分け手法の活用」 伊藤伸(構想日本)

ワークショップ(模擬事業仕分け)

※3日(金)の川嶋の演習が4日に、4日の加藤の講演が3日に変更になりました。

【対 象】 市区町村議会議員および都道府県議会議員

【持参物】 ノートパソコン(演習において使用します)

【定 員】 20名(要事前予約)

【参加費】 18,000円(食事、宿泊は含まれません)

【申し込み】メールでのお申込みは、info@kosonippon.orgまで FAXでのお申し込みは、 03-5275-5617まで

※申し込みの際には、お名前(フリガナ)、所属、TEL、FAX、E-mailをご記入下さい。

※〆切:6月26日まで

お問い合わせは 構想日本 伊藤/川嶋/田中 TEL 03‐5275‐5607 まで

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(3)「現場みらい塾」第2期 開催中、第3期 募集中

政策シンクタンクPHP総研と共同で昨年度スタートした「現場みらい塾」。

受講生の満足度が高かったこともあり、今年度は第2期、第3期を開講することとしました。

自治体職員を主な対象としていますが、それ以外の方も参加可能です。是非お申込みください。

テーマ

「”自分事”からはじめる地方自治 ~現場目線で人口減少時代を突破する ~」。

人口減少時代に突入した今日。地域にとって最も必要なのは、直面するさまざまな課題を自分事として捉え、考え、行動できる人材です。前例踏襲を振り払い、マニュアル依存から抜け出して、課題解決と未来創造に挑戦する。そんな強い志をもち、現場で活躍できる地域リーダー人材を輩出することをめざします。

特 徴

1.地域経営の第一線で活躍している講師陣

2.最先端の政策や手法のトレンドを学びとる講義プログラム

3.自ら考え、取り組むことで体得する実践プログラム

『第2期』スケジュール  1回のみのご参加も承ります。

第2回:6月20日(土)10時~18時
第3回:7月11日(土)10時~18時
第4回:8月8日(土)13時~18時半、9日(日)9時半~16時

『第三期』スケジュール

第1回:9月26日(土)13時~18時半、27日(日)9時半~16時
第2回:10月24日(土)10時~18時
第3回:12月5日(土)10時~18時
第4回:2016年1月16日(土)13時~18時半、17日(日)9時半~16時

その他詳細はこちら

http://research.php.co.jp/event/2015/05/16.php

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(4) Yahoo!ニュースオーサー記事更新!

Yahooニュースにオーサーとして投稿している記事が更新されました。ぜひ御覧ください。

代表 加藤秀樹

◇5月28日「「地方創生」成功のコツ ―現状把握と課題の分析」

http://bylines.news.yahoo.co.jp/katohideki/20150528-00046116/

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【特集】<国立競技場の建て替え問題>

新国立競技場の建て替えをめぐり、混乱が続いている。

槇文彦氏をはじめ、構想日本も1年以上前から新国立競技場の建て替えの問題点を整理し、指摘していた。

しかし、文科省はそれに答えずにきた。その責任は大きい。

そして、そのとき整理した問題点のとおりの混乱が起きてしまっている。

今、指摘されている問題点を、あらためて見なおして欲しい。

「新国立競技場の建て替えは将来世代に誇れることなのか」

http://bylines.news.yahoo.co.jp/katohideki/20140502-00035003/

「国立競技場解体予算を徹底解体しよう。」

http://bylines.news.yahoo.co.jp/katohideki/20141003-00039651/

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《参考》

去る6月16日に「神宮外苑と国立競技場を未来へ手わたす会」が記者会見を開いた。

「新国立競技場現行案に対する緊急市民提言」

動画 http://www.ustream.tv/recorded/63926555

HP http://2020-tokyo.sakura.ne.jp/

記者会見の後 森山高至氏の勉強会が開かれた。

「緊急開催!まだまだ終わらない公開勉強会2 真国立競技場へ」

動画 http://www.ustream.tv/recorded/63928056

ブログ http://ameblo.jp/mori-arch-econo/page-2.html

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