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【No.753】「軽減税率と新聞報道のあり方」|慶應義塾大学 特別招聘教授  柏木 茂雄氏|

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J.I.メールニュース No.753 2016.04.21  発行

「軽減税率と新聞報道のあり方」

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【1】<巻頭寄稿文>

「軽減税率と新聞報道のあり方」

慶應義塾大学 特別招聘教授  柏木 茂雄

【2】<お知らせ>

(1) 第224回J.I.フォーラム  5月19日 開催

「取りあい」から「関わりあい」へ  ―ふるさと納税を反省する―

(2) 今後の構想日本の活動

(3) Yahoo!ニュースオーサー記事更新!

【3】<ご紹介>

(1) 第1回 4月25日「最高裁前アクション」

先週のメルマガ執筆者 末吉 正三さんからのお知らせです

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【1】「軽減税率と新聞報道のあり方」

慶應義塾大学 特別招聘教授  柏木 茂雄

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4月7日に配信された田中教授の「巻頭寄稿文」に触発され、改めてこの問題を提起したい。

「紅茶は○でコーヒーは×。テニスラケットは○でゴルフクラブは×」と言われても若い読者には何のことだか分からないであろう。消費税導入前の我が国には物品税なるものがあり、コーヒーやゴルフクラブは課税され、紅茶やテニスラケットは非課税とされていた。前二者は贅沢品とみなされたためだが、その根拠は恣意的であった。

そこで、1989年に我が国で消費税が導入される際、物品税の持つ恣意性を排除する観点から、すべての財・サービスに対して単一の税率がかけられることとなった。

消費税(付加価値税)を導入している多くの先進国では、複数税率制が採られており、その煩雑さに苦労している。その点我が国の単一税率は称賛に値する政策とされていたが、それが、軽減税率の導入によって、来年4月に終焉しようとしている。

そもそも「軽減税率」とは何か。
我が国の消費税率再引き上げにあたり、特に低所得層の痛税感を和らげる必要があるとの観点から、具体案として登場したのが「軽減税率」(複数税率)だ。飲食料品には通常より低い税率を適用し消費者の税負担を少しでも減らそうとするものだ。

確かに一部の商品について10%の税率を払うより8%で済めば消費者の負担は軽くなる。しかし、問題がない訳ではない。

まず国庫の立場からすれば一律10%の場合に比べ税収が減少し、結果的に将来世代への負担のつけ回しが増えてしまう。また、富裕層であっても飲食料品を消費するので、本来の政策目的である低所得層対策として効果的かどうか疑問が残る。

さらに、何を「飲食料品」とするかの線引きが難しく、冒頭で述べた恣意性の問題が復活してしまう。取りあえずの線引きが出来たとしても、現場の混乱・苦労は永遠に続き、事業者、消費者、税務当局がそのコストを負担していかねばならない。

軽減税率にはこのような問題点が多くあり、経済学者や国際的な識者からすれば「導入すべきでない」というのが大方の意見だった。例えば、国際通貨基金(IMF)やOECDは、毎年公表している報告書において、日本は軽減税率を導入すべきでなく、低所得層に対する負担軽減のためには現金給付等の措置が望ましいとの提言を一貫して言ってきている。

しかし、このような見方は国内であまり知られていない。なぜなら、軽減税率導入の問題点や反対論が国内の新聞紙上に掲載されることは稀だからだ。私自身、IMFやOECDの担当者に対して軽減税率の問題点を我が国国民に広く伝えて欲しいと要望したが、日本の新聞はそのような論点を掲載してくれないと嘆いていた。

我が国の新聞は何故に「軽減税率の問題点」を報道しなかったのか。

その謎を解くのが飲食料品への軽減税率適用が政治的に決着した際に掲載された小さな記事である。それによれば、新聞にも軽減税率が適用されることとなったとある。そして、それによる税収減が200億円になるとのことであった。

これは我が国の文化を守るために必要な措置であり、先進国の多くでも新聞には軽減税率が適用されていると報道された。

確かに欧州の多くの国では新聞に軽減税率あるいはゼロ税率が適用されている。しかし、日本の新聞が報道しないのは、海外での新聞への軽減税率適用は、紙媒体による新聞が報道チャネルとして重要な地位を占めていた頃、いわば消費税(付加価値税)導入当初からであるという点だ。

今の日本の新聞はデジタル媒体が普及する一方、紙媒体の相対的重要性が低下しており、今や経営上の大問題となっている。新聞経営の立場からすれば、来年4月の消費税率再引き上げをきっかけとして販売部数が一層落ち込むことを避けたいという気持ちが強い。そのため、定期契約の新聞を飲食料品同様、軽減税率の適用品目に加えたいというのが本音である。

今更この議論を蒸し返せば、来年の消費税率引き上げそのものが危うくなる可能性がある。そうなれば我が国の財政再建が先延ばしされ、将来世代が泣くだけであり得策とは言い難い。

しかし、今後の政策決定プロセスから不透明性を排除し、質の高い政策議論を確保するためには、今回の軽減税率導入の経緯及びそこにおいて新聞が果たした役割についてじっくりと検証する必要がある。

消費者である国民は我が国の新聞報道の公正性、中立性には限界があることを認識し、一人ひとりが賢く知恵のある国民となる努力をせねばならない。そこにおいて構想日本のようなシンクタンクが果たすべき役割は極めて大きい。

(本稿は内外ニュース社発行の週刊「世界と日本」(28年3月21日号)に掲載されたものを加筆修正したものである。)

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柏木 茂雄 (かしわぎ しげお)

慶應義塾大学経済学部卒業後、大蔵省(現財務省)入省。米国プリンストン大学修士。国際通貨基金(IMF)及びアジア開発銀行に合計12年間出向。財務省退官後、慶應義塾大学大学院商学研究科教授に就任。本年4月より現職。これまでの行政経験、国際経験を踏まえ、日本経済、財政政策、国際金融等、生きた経済を英語で教えている。特定非営利活動法人「国際人材創出支援センター」理事も務める。

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【2】(1)第224回J.I.フォーラム  5月19日 開催

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「取りあい」から「関わりあい」へ  ―ふるさと納税を反省する―

「ふるさと納税」の広がりとともに返礼品競争など弊害も目立っています。自治体間での「寄付」の取りあいは、自治体と納税者とのつながりを強めるという本来の趣旨と大きくずれていますし、長続きしません。

人口減少時代には、住民を「取りあう」のではなく、自治体に関わる人をふやすことが大事だと思います。その有力な方法が「ふるさと住民票」です。

複数の町で活動し、暮らし、自治体と多様な関係を持つ人が多くいる現代、自治体と住民の関係を、新しい視点に立ち、考え直してみたいと思います。

◯日 時:平成28年 5月19日(木) 18:30~20:30(開場18:00)

◯会 場:アルカディア市ヶ谷 6階 「伊吹」 (千代田区九段北4丁目2番25号)TEL 03-3261-9921

http://www.arcadia-jp.org/access.htm

※場所にご注意ください

◯ゲスト:景山 享弘(鳥取県日野町長)

片山 健也(北海道ニセコ町長)     他

◯コーディネーター:加藤 秀樹(構想日本代表)

◯主 催:構想日本

◯定 員:120名

◯参加費:一般 2,000円 / 学生 500円 (構想日本会員は無料です)
※学生の方は受付にて学生証をご提示ください。

◯懇親会参加費:4,000円(ご希望の方は懇親会参加とお申込み時に明記して下さい)

※フォーラム終了後、ゲストを囲んで、懇親会を開催いたします。

会場  「TO THE HERBS(トゥザハーブズ) 市ヶ谷店」

千代田区五番町2(JR市ヶ谷駅2F) TEL.050-5787-1164

http://www.to-the-herbs.com/shop/tky_ichigaya/

※フォーラムへのご参加は5月19日(木)12:00まで info@kosonippon.org  にお願いします。

お申し込みはこちらから http://www.kosonippon.org/cp-bin/wp/forum/index.php

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(2)《今後の構想日本の活動》

《行政関係》

2016年5月15日(日) 滋賀県 高島市「第5回市民ワークショップ」

今年度の実施一覧はこちらからご覧いただけます→ http://www.kosonippon.org/cp-bin/wp/blog/?page_id=145

《その他》

2016年4月~隔週月曜日 京都大学経済学研究科・経済学部 特殊講義「公共経営論1」 (代表 加藤秀樹)

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(3)Yahoo!ニュースオーサー記事更新!

Yahooニュースにオーサーとして投稿している記事が更新されました。ぜひ御覧ください。

代表 加藤秀樹

◇3月8日 防災を「自分事」に

http://bylines.news.yahoo.co.jp/katohideki/20160308-00055180/

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【3】<ご紹介>

構想日本が応援している活動に関するお知らせです。
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国立市が、上原公子元国立市長個人に、4300万円の損害賠償金を求める裁判は、現在、最高裁に上告申立中です。

最高裁は扱う裁判が多く、放っておくと、あまりしっかり審査しないそうです。

上告が不受理とされないよう、弁護団や市民の声を届ける100人規模の結集が必要とのことです。お時間の許す方は、ぜひご参加ください。

◇日 時 4月25日(月) 12:00~17:00

◇内 容

(1)最高裁前アクション(正門前)12:00~15:00(予定)

※30分程度、代表の17人が最高裁内に入って意見陳述します。

場所:最高裁 正門前

(2)国立景観求償権裁判★自治が裁かれる 15:00(開場)~17:00(予定)

場所:参議院会館101号室

上原公子氏や窪田之喜弁護士ほか

◇主 催:くにたち大学通り景観市民の会 &国立景観求償訴訟弁護団

詳細はこちらから → http://daigakudori.blogspot.jp/

先週のメルマガ → http://www.kosonippon.org/cp-bin/wp/mail/detail.php?id=761

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