【No.85】間違いだらけの行政改革
2003.02.14

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間違いだらけの行政改革
JIメールニュースNo.85  2003.2.14
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■■ 目次 ■■
1.《天邪鬼の問題提起その(1)》間違いだらけの行政改革
上山 信一
(米国ジョージタウン大学研究教授)

2.《1月28日第67回「JIフォーラム」の報告》

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1.《天邪鬼の問題提起その(1)》間違いだらけの行政改革
上山 信一
(米国ジョージタウン大学研究教授)
「改革」はすっかり時代のキーワードとなった。だが、改革はともかく
やればよいというものではない。失敗や改悪となる場合もある。改革の
“品質”が問題だ。行政改革についてはどうか。問題が多い。
短絡的な思い付き、もしくは実態をわきまえない制度いじりが多い。
今回は、しばしばメディアで話題となる5つの改革案を俎上に載せ、あ
えて天邪鬼的に問題提起し、世論の常識や政府の方針に挑戦してみたい。
●天邪鬼の疑問(1)首相公選制はますます改革を遅らせる?
確かに民意は反映しやすい。国民の政治参画意欲も高まる。だがわが国
の改革がうまくいかない理由は、首相の裁断が唯一絶対なものとして尊重
されない点にある。与党多数派が公然と首相の公約を批判する。連立政権
を構成する閣僚の足並みもそろわない。かくして各省庁はしばしば首相の
意向に対し、面従腹背となる。要は首相は、日本国政府の社長として機能
しない。このまま首相公選制にするとどうなるか。改革派の首相と与党の
対立が改革をさらに遅らせる。議員内閣制の強化、そして自民党内での総
裁権限の抜本強化こそが真の課題だ。
●天邪鬼の疑問(2)中央省庁や市町村の統合・合併はかえって非効率
を生む?
昨今の経営改革の常識は「組織は小さいほどよい」というものだ。国鉄
も分割で再生した。ところが中央省庁や市町村の改革では統合・合併が進
む。逆ではないか。鉄鋼・電力のような製造業では小さな組織は非効率だ。
だが、サービス産業では組織は小さいほうが効率的だ。
政府はサービス産業の典型だ。中央省庁は、案の定、省庁再編以後ます
ます業務効率が悪化し、意思決定が遅くなった。
例外は金融監督機能だが、これは大蔵省から分離独立し、小さな組織で
よくなった。
市町村の合併促進についても疑問だ。自治体の財政危機は規模が小さい
が故ではない。政府による自治体の護送船団経営が破綻しつつある。
各地での合併騒動は労多くして得るものが少ない。むしろ本来行うべき
経営改革をストップさせる弊害のほうが大きい。自治体改革の正攻法は、
むしろ巨大な都庁や大阪市役所のサービス業務の分割民営化ではないか。
小さな市町村の強制合併は、本筋から外れた傍論(暴論)だ。
●天邪鬼の疑問(3)地方への税財源の委譲は、今、本当に必要か?
赤字企業の再建の際には、支出決済権限を中央集権化し、一気に合理化
する。サッチャー改革でも放漫支出を続ける自治体の税財源を国が奪取し、
経営改革を強制した。わが国政府予算の7割は自治体分だ。中央集権的な
思い切った財政リストラが必要な時期に来ている。ところが昨今、税財
源を自治体に移管しろという主張が盛んだ。確かに補助金の使途にまで口
出しする各省庁の介入は余計だ。予算の配分権限は委譲すべきだ。しかし、
税財源の丸ごと委譲は尚早だ。企業改革では、財務リストラの最中に事業
部に権限委譲するなどありえない。最終的には財源は自治体に委譲すべき
だ。だが、今、議論するのが果たして妥当か。財政破綻の現実を直視せず、
理想論を語る一部の首長や識者の経営感覚の欠如は危険だ。
●天邪鬼の疑問(4)議員による立法、条例提案は促進すべきか?
国政でも自治体レベルでも、議員が法案や条例立案すべきだと言われ
る。しかし、あの貧弱な政策スタッフと事務処理しかできない事務局のも
とでの立案は無理だ。課題の把握、問題提起まではよい。だが、その先
は情報量と立案スキルの面で官僚には到底、対抗できない。議員立法は
一見派手で格好いい。だが官僚の真似事でしかない。所詮はゲリラ戦でし
かなく、持続改革への展開シナリオが見えない。議員は政策立案よりもむ
しろ行政評価や監査などのチェック機能を強化し、それを通じて官僚機構
をコントロールするべきだ。
●天邪鬼の疑問(5)国の政策評価は、現状肯定の道具に化けていない
か?
本年度から、中央省庁に政策評価が義務づけられた。しかし根拠となる
2つの法律には致命的な欠陥がある。まず中央省庁改革基本法は「各省庁
が自ら評価を行う」と定めた。一方それを受けて作られた政策評価法では
「客観的かつ厳正な評価を行う」と定めた。
つまり各省庁は自分で自分のことを客観的かつ厳正に評価することを求
められる。これが果たして「評価」といえるのか。やらされるほうも困る。
案の定、各省庁の評価報告書は、当たり障りのない部分を中心につまみ
食いし、「全体としてはよくやっている」との報告に終始してした。
自らやるなら経営改善のための「目標管理」とすべきだし、「評価」と
いうなら第3者のチェックを受けるべきだ。足して2で割り、わけのわか
らない制度になった。関係法規の全面改正が不可欠だ。
さて、以上5つの疑問は、問題提起のためにあえて出した。一般世論、
識者の常識にチャレンジするのが目的だ。正解は私もまだ持ち合わせない。
私が言いたいのは個々の改革案の中身の是非よりも、改革案の立案過程の
おかしさだ。わが国ではしばしば政党などの有力者やタレント学者の思い
付きがファッション的に流行し、ろくに議論もされずに制度化される(省
庁再編、市町村合併など)。あるいは改革案作りを官僚組織と御用学者
に丸投げし、おかしな制度か骨抜きになる(政策評価など)。
ここで決定的に抜けているのが「現場」と「経営」の視点である。これ
は政治家、官僚、学者にはあまり期待できない。民間出身の閣僚やその補
佐官、さらには米国のように現場経験の豊富なスタッフを抱えた政策提言
型のNPOや経営コンサルタントの活用が不可欠だ。彼らを交え、政策案は
練り上げる。その経過は情報公開する。行政改革の「品質改善」が急務だ。
筆者のプロフィール: 運輸省、外務省、マッキンゼー共同経営者を経
て現職。近著に「自治体再生戦略」「政策連携の時代」「行政の経営改革
など。
構想日本の創設時以来の政策・運営委員。
詳細は、 http//:www.pm-forum.org/ueyama/
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2.《1月28日第67回「JIフォーラム」の報告》
第1部は、子どもの脳の成長にメディアが及ぼす影響について、強い危
機感をもつ大岩 元氏(慶應義塾大学教授)、小西行郎氏(東京女子医科
大学教授)、川島隆太氏(東北大学教授)、坂元 章氏(お茶の水女子大
学助教授)、七海 陽氏(子どもとメディアジャーナリスト)の各氏が、
主に科学者としての立場から問題意識を語りました。
第2部は、一部に引き続き小西氏、猪俣富美子氏(東京外語大学アジ
ア・アフリカ言語文化研究所研究支援推進員)、清川輝基氏(NHK放送文
化研究所専門委員)、榊原洋一氏(東京大学医学部付属病院講師)、牧
裕子氏(あかね保育園園長)、箕浦康子氏(お茶の水女子大学教授)が、
子どもの生活に浸透しているメディアの実態やNPOの取り組みなど、現場
からの報告をもとに、今後の育児のあり方、親の役割などについて議論し
ました。
当日は、2部構成で行われ、数十人の立ち見が出るほどで、マスコミの
関心も高く、普段にも増して多くの取材記者が熱心にメモをとっていまし
た。
<コーディネーター>
第1部  大岩 元(慶應義塾大学教授)
第2部  小西行郎(東京女子医科大学教授)
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