【No.135】環境と経済の統合は可能か?
2004.02.20

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環境と経済の統合は可能か?
JIメールニュースNo.135  2004.2.20
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■■ 目次 ■■
1.《環境と経済の統合は可能か?》
― 環境省の重点施策と予算案から考える ―
2.《第80回「J.I. フォーラム」のご案内》
3.《お知らせ》

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1.《環境と経済の統合は可能か?》
― 環境省の重点施策と予算案から考える ―
弁護士 佐藤 泉

●環境省の重点施策
環境省の今年の重点施策は「環境と経済の統合」がキーワードである。
予算案(合計2837億円)を見ると、この「環境と経済の統合」の
「基盤づくり」に229億円をあてている。内訳は、93億6400万
円を企業経営・産業活動として計上しており、 (1)環境ビジネスの育成
・振興に15億5100万円、(2)環境報告書・格付評価関連に9900
万円、(3)ナノテクなどの環境技術開発・普及に77億1400万円 と
ある。いわゆる石油特会(石油及びエネルギー需要構造高度化対策特別
会計)からも、温暖化対策(CO2排出抑制)の予算がある。(4)温暖化防
止のまちづくりの推進に46億1000万円、(5)温暖化対策ビジネス振
興と先端的な温暖化体策技術の開発に47億8400万円など、合計額
は125億円である。

なんだか、経済産業省の予算を見ているようで、不思議な気分になる。
とりわけ技術開発には、(3)(5)を合わせて124億9800万円と予算
が多く当てられており、太陽光発電、風力発電、燃料電池などいわゆる
「新エネルギー」分野の技術開発にかかわるビジネスには相当の財政的
援助が期待されることだろう。

● 予算は「使われ方」の検証が必要
このような予算の配分から、政府が特定の環境ビジネスを強く支援す
ることが、かえって旺盛な産業活動を促進し、結果として、環境対策と
しては合理性のないものになる危険も指摘できる。経済的な効率性や利
便性を求める産業活動が環境破壊を生みだしてきた経緯を考えると、経
済よりも環境を優先させることこそが環境省の使命ではないか?と言う
こともできる。かつて「ダイオキシン対策」という名のもとに高額な大
型焼却炉、廃棄物発電施設などに過剰な投資をした過去の教訓は、記憶
に新しい。
しかし、従来のように産業活動を規制するだけの行政手法では解決で
きない問題のあることも理解できる。現在、地球温暖化対策は地球規模
で緊急の課題となっており、経済活動のグリーン化を促進することが必
要となっているからだ。この点、環境報告書・格付け関連予算は少額で
はあるものの、金融のグリーン化、株価対策などに寄与することが予想
される。企業の環境報告書は、企業の社会的責任を求める国際的な動き
のなかで競争力を高めるための手段として注目されている。
このように、予算は名目や額の多さ、少なさを比較するだけでは、
「環境と経済の統合」が実際どのように進められていくかを検証するこ
とが難しいことが分かる。予算の検証には、「実際の使われ方」を見る
ことが必要だ。問題は、予算が適切に、有効に、そして公平に使われる
か、ということにある。

●環境情報の公開と審査
「環境と経済の統合」にかかわる予算の適切な、有効な、公平な使われ
方を検証するには、どのような取り組みが必要だろうか。
環境ビジネスにかかわる企業に限定することなく、自社の環境への取
り組みを報告させ、それを審査することも検証方法のひとつである。環
境省では、企業が作成する「環境報告書」の内容を第三者が審査する
「環境報告書審査登録制度」の整備を予定している。現在、(1) 情報開
示の方法、(2) 企業や審査人の責任、特に重要な虚偽記載のあった場合
の対応について、環境省で審議されている。1月19日から始まった通
常国会では、「環境に配慮した事業活動の推進に関する法律案(仮称)」
が環境省から提出された。企業が環境に配慮した活動を自主的に行うこ
とを促すとともに、国などが環境報告書を作成すること、この報告書を
第三者が審査することを義務化する。

●環境情報の理解から是正対策へ

このような環境情報の公開は、信頼関係の重要な基礎になることは勿
論のことだと思われる。加えて、環境情報の理解の仕方、是正対策への
つなげ方がさらに重要だと痛感している。

私は、財団法人 地球・人間環境フォーラム、社団法人 全国環境保全
推進連合会の主催する「環境レポート大賞」の審査委員を務め、企業の
環境報告書の審査を行った経験がある。環境情報は比較が困難で理解し
にくいため、環境に負荷を与えていることを具体的に、数値をあげて認
めたうえで、自社が継続的な取組みを行っていることを読者に伝えるこ
とのできる情報公開が必要だと強く感じた。多くの環境報告書を読んで
いると、自画自賛的な要素が強いものが多いと思わざるを得ない。都合
のよい資料だけを出して、「環境に優しい企業」というアピールをする
ことだけでは意味がない。「環境と経済の統合」には、行政と企業だけ
によって行われるものではない。地域住民、従業員、投資家、納税者、
選挙民などが参加することによって、少しずつ作っていくものではない
だろうか。

<プロフィール>
1982年 早稲田大学第一文学部卒。現在、佐藤泉法律事務所にて、
弁護士として活動。主な活動は、環境問題、PL問題に関する企業法務。
日本弁護士連合会 公害対策・ 環境保全委員会委員、第一東京弁護士会
・環境委員会委員、ダイオキシン・環境ホルモン国民会議常任幹事、日本
地質汚染審査機構(NPO法人)理事、生活協同組合東京マイコープ監事、
社団法人日本鉄リサイクル工業会理事など。
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2.《第80回「JIフォーラム」のご案内》
保育所は「雇用」「女性」だけの問題か?
~“乳幼児教育”が日本の将来を致命的に左右する !!~
子どもの成長、教育の視点から「保育所」を考えたことがありますか?
それは、乳幼児が人として生涯の土台をつくる最初の社会、教育の原点で
す。これまで保育所は、縦割り行政のせいで雇用の面からしか語られてき
ませんでした。教育の視点がすっぽりと抜け落ちていてもよいのでしょう
か? 日本の将来に重大な事態を招くことにならないでしょうか? 第一
部・二部を通して徹底的に討論します。
★ 第一部 【16:00~18:00】 施設の民営化、幼保一元化など“量”を
確保するだけの施策をうけて、保育・育児現場 が抱える問題を、生々
しく語ります。
★ 第二部 【18:30~20:30】 乳幼児の“育ち”を軸とした改革なしに
社会の繁栄はありえません。“雇用”中心の次世代育成施策ではなく、
企業が何をなし得るかを含め議論します。
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日時: 平成16年 2 月25日(水)
会場: 銀座ソニービル8階 ソミドホール
開演: <第1部> 16:00 ~ 18:00 (15:00開場)
司 会:小西行郎 (東京女子医科大学教授)
討論者:安藤哲男  (株式会社資生堂人事部課長、企業内保育
施設「カンガルーム」責任者)
大日向雅美(恵泉女学園大学教授)
遠山洋一 (バオバブ保育園小さな家園長)
新澤拓治 (江東区子ども家庭支援センターみずべ地域
ネットワーク主任)
普光院亜紀 (保育園を考える親の会代表)
<第2部> 18:30 ~ 20:30
司 会:小泉英明 (株式会社日立製作所参与・技師長)
討論者:本田和子 (お茶の水女子大学学長)
吉岡てつを(厚生労働省少子化対策室長)
汐見稔幸 (東京大学大学院教授)
山極清子 (株式会社資生堂経営改革室次長)

主催:構想日本  定員:160名(先着)
企画:七海 陽・小西行郎・汐見稔幸
参加費:2,000円(シンクネット構想日本会員は無料です)
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参加希望の方は、下記のメールアドレスにお申し込み下さい。
forum@kosonippon.org
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参加ご希望の方は、誠に恐縮ですが2月24日までに出欠の是非を
お知らせ願います。
お問合せ:構想日本・西田(電話03-5275-5607)
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3.《お知らせ》
●「新潮45」3月号(新潮社)
ジャーナリズムを否定する「猪瀬直樹の作法」 櫻井よしこ
2月号の「猪瀬直樹の仮面を剥ぐ」で道路公団改革の政府案の決定プロセ
スを克明にレポートしたジャーナリストの櫻井よしこさんが、引き続き、
政府の「民営化推進委員会」の議論過程を鋭く追及しています。政府の
「委員」のあり方、ジャーナリズムの姿勢を問う記事でもあります。
一方、猪瀬氏は同号で、櫻井氏の記事に対し反論しています。氏の反論は
果たして「論破」したことになっているのか、2月号と合わせ、ぜひご覧
下さい。
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