【No.169】オランダの教員サポート体制に学ぶ
2004.10.15

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オランダの教員サポート体制に学ぶ
JIメールニュースNo.169  2004.10.15
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■■ 目次 ■■
1.《教育改革》オランダの教員サポート体制に学ぶ
2.《第88回「J.I.フォーラム」のご案内》
3.《お知らせ》

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1.《教育改革》 オランダの教員サポート体制に学ぶ
教育研究家 リヒテルズ直子
●現場の裁量が大きいオランダの教育
私が8才と11才の子供を連れてオランダに住み始めたのは約8年前。オ
ランダの学校制度は個々の子供の特性を重んじ、実に多様な教育理念や方
法を認めている。我が子がここで育つ姿を見ながら、日本の教育制度が抱
える問題を何度も考えさせられた。オランダでは、公私立の別なく各学校
の理念や自主運営が尊重されている。特に先生には、授業方法、教材選び、
学級運営等で欧州でも際立つ大きな裁量権がある。
学校や教員に大きな裁量を認めると、学校間格差が生じ、教員の性格や
能力の差によって教育の質が保てなくなるとの心配が出てくるだろう。だ
が、オランダには「教育の自由」の伝統がある一方、「質の保障」でも優
れた仕組がある。
●教育の質はどう保つのか?
教育の質を保つ仕組の一つが「インスペクター機関」(国の評価・点検
機関)である。保護者はわが子にのみ目が向かいがちだ。そこで、社会全
体の安定を保ち、グローバル化の進む中で国や地域のあるべき姿を考え、
それに向けて次世代を育てるという観点から、公教育全体の質を保障する
のは「国」の役割。この考えの下、オランダではインスペクターが全学校
を個別に監督している。当機関は、国の教育政策を立案する文科省とは独
立して、各学校の教育実践を、学力だけでない幅広い指標をもとに総合的
に評価する。その結果は学校に通知され、インターネット上でも公表され
る。学校は、その診断を重要な手がかりにして改善を行う。
●サポート機関:オーダーメイドの教員支援
学校や教員はインスペクターが指摘した問題にどう対応しているのか。
オランダには、問題解決を迫られた教員を支援するため、各地に「教員サ
ポート機関」が置かれている。約30年前に市の機関として始まり、今は民
営化が進んでいるが、費用は地域の子供の数に応じて国と市が折半してい
る。
オランダの先生も日本と変わらず様々な問題に直面している。授業につ
いていけない子をどう教えるか? 特定教科だけ得意な子をさらに伸ばす
には? オランダ語がわからない移民の子に合った教材は? 保護者とう
まく付き合うには? こうした教員の悩みや要望に対して、サポート機関
には大学等で専門教育を受けた者や元教員など知識・経験の豊かな常勤の
サポート要員がいて、親身に相談に乗っている。また、学校を頻繁に訪れ
て授業をビデオで撮ったり、問題の子供に心理テストを行うなど、現場ベ
ースの細やかな対応をしている。まさに、個々の教員に合わせた「オーダ
ーメイドの支援」である。
●現場と学界をつなぐサポート機関
実はサポート機関の活動は、現場の教員と大学等の研究者をつなぐ重要
な役割を果たしている。サポート要員は研究者の資料を活用することが多
く、学界の成果が現場に応用されるよい機会となっている。また、それが
研究者に現場の問題を強く意識させ、現場に根ざした実践的研究を促して
いる。当機関は、刷新的な教育法を公教育に普及させるのにも大きく貢献
してきた。オランダでは70年代以降、個々の子供を重視した既存と異なる
教育法(オールタナティブ教育)が数多く興ったが、当機関はこれらの刷
新的な教材や教授法を、既存校の問題解決のために積極的に取り入れてい
る。
●日本の教育改革へのヒント
翻って今の日本の教育。画一性の強い制度の下、教員は中央からの細か
い指導と目前の子供のニーズとの間で板挟みになっている。教員が今の教
育を悪くしているとの批判をよく聞く。確かに子供と直に接しているのは
教員であり、教員の養成法や研修等を改善し、教員の質を上げる必要があ
るのは言うまでもない。
しかし、規則に縛られ時間に追われる教員たちを、専門知識や豊富な経
験によって十分にサポートする体制が今の日本にあるだろうか。教員を追
い詰めている原因は、教員を支える代りに、教員に全責任を押し付けよう
とする国や保護者にもないだろうか。オランダのように、国や地域の
「知」を結集して先生たちを制度的に支えられれば、先生たちは本来の力
を発揮でき、日本の教育も良くなるのではと私は思う。
<筆者のプロフィール>
55年下関生まれ。九大大学院修了。専攻は比較教育学、社会学。81年にマ
レーシア留学後、96年までオランダ人の夫とともに、ケニア、コスタリカ
などに滞在。97年「地球を渡る風の音」刊行。96年からオランダ在住。今
年9月、「オランダの教育」(平凡社)を出版。
メール・アドレス: naoko.yasumoto@planet.nl
※ ホームページ「オランダ通信」: http://home.planet.nl/~naokonet/

◆ひとこと
構想日本が日本の教育改革のために提案している「国の行政コントロール
による画一的な教育から現場の知恵、工夫を活かした多様な教育へ」とい
う変革を実現させるための具体的な工夫がオランダでは実行されており、
大変参考になる。全国知事会などが義務教育に関する補助金削減を国に求
めている今は、中央集権的な教育行政を変えて改める機会。リヒテルズさ
んにも大いに発言して頂き、教育行政改革を実現させましょう。
(加藤秀樹)
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2.《第88回「JIフォーラム」のご案内》
「語り」が歴史をつくる
-オーラル・ヒストリーでブラックボックスを開く-
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インターネット時代になり、どうやってそうなったという歴史のプロセス
抜きの結果ばかりが情報として取り上げられています。
オーラル・ヒストリーとは、専門家による、万人のための口述記録を作
成して後世に伝える手法です。この手法により、私達が知り得なかった、
歴史をつくってきた人々の胸の内に封じられていたブラックボックスを開
きます。インターネットや文献では読み取れない意思決定プロセスの中に
秘められた「その時、何が起きていたのか」を解明していきます。
オーラル・ヒストリーの第一人者である東京大学教授の御厨貴氏(政治
学)と、「語り」を引き出す達人であるジャーナリストの永江朗氏をお迎
えし、オーラル・ヒストリーの魅力、可能性について大いに語っていただ
きます。
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日 時  : 平成16年10月27日(水)
会 場   : 銀座ソニービル8階 ソミドホール
開 演  : 午後6時30分(開場:午後6時00分)
討論者  : 御厨 貴 (東京大学教授)
永江 朗 (ジャーナリスト)
主 催   : 構想日本
共 催  : 東京大学先端科学技術研究センター 御厨研究室
定 員  :160名
フォーラム参加費 :2,000円(シンクネット・構想日本会員は無料で
す)
懇親会参加費   :3.500円(ご希望の方は下記懇親会参加に○印を
つけてください)
※ゲストを囲んで懇親会を開催いたします。事前申込のみ承ります。
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参加ご希望の方は、10月26日までに出欠の是非を、下記のメールアドレス
にお申し込み下さい。
forum@kosonippon.org
お名前
所属
ご連絡先

懇親会         参加する      参加しない
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お問合せ:構想日本・西田(電話03-5275-5607)
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3.《お知らせ》
加藤秀樹が世話人になっている、「日本再建のため行革を推進する700人委
員会」主催の『郵政改革』を考えるシンポジウムのご案内です。構想日本
が手がけてきた道路公団などの特殊法人改革とも密接にからむので、是非
ご参加下さい。

「郵政改革」を考えるシンポジウム
日時: 10月27日(水)15:00~17:30
場所: 日本財団ビル2階 大会議室
パネリスト: 塩川正十郎、竹中平蔵、本間正明、生田正治、北城恪太郎
など
入場無料、参加申し込みは、03-3234-2882 700人委員会事務
局まで。
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