【No.380】職人リレーエッセー(12) 裸にされる工芸
2008.12.19

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JIメールニュースNo.380  2008.12.19 発行
職人リレーエッセー(12) 裸にされる工芸
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◆◇ 目 次 ◇◆

1.【職人リレーエッセー(12) 裸にされる工芸】

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1.【職人リレーエッセー(12) 裸にされる工芸】

株式会社 阿以波 代表取締役
京都扇子団扇商工協同組合副理事長
饗庭 智之(長兵衛)

創業320年の団扇屋に生まれ、そのうち20年強うちわ作りに携わり、襲名が7
年前、社長就任は9年前ではあるが、実質的に零細企業のリーダーは20年近
くやっている。
最終的には文化発信が必要な立場に在り、文化に寄った発言をすべきであろ
うが、職人である自分を理解するのに言い訳の許されないところに追い込むこ
とが早道な気がするので「国」のようなスポンサーとの関係を「経済」の視点で
語ろうと思う。職人らしくない弁が多くなると思うが、客観視することが必要だっ
たと云う事でご理解いただきたい。

◆ 職人とは
昔の物を見ると、「機械もなく、環境も整っていない時代によくこんな手の込ん
だ仕事が出来るものだ」とよく思う。逆に、「今こんなものを作ったら、幾ら位か
かるだろう」と思う人も多いだろう。無口でとっつきにくく、気位も高そうな今の
職人に頼むとするとかなり厳しそうである。
その主因は、雇用形態の違いで説明できる。その当時の職人は雇用主のと
ころに居住まいし、基本的な生活をまかなわれて仕事をした金銭での交換分
が少ない。職人のプライドはどのような見識の高い人に雇われたかを問う事
が多い。
立派なメーカーが店先に「・・・御用達」、「・・・認定」と誇らしげに表記するの
も、誰に認められたブランドであるかをアピールしたい表れであり、自らのス
ポンサーの力量の強さが職人の誇りなのである。
◆ 第二段階を目指す
自社を含め多くの京都の工芸のブランディングは、第一段階を完了している。
食品や必需品を除いて、多くの商品が次の段階に行けずに停滞している。
永年よい品を追い求めているうちにその商品は専門性を強め(商品の使用範
囲を限定し)、その分野での競争相手を淘汰してきた。
そのためその分野が受け持ってきた文化が細ってきたり、その商品を用いた
新しい文化を啓蒙したくても、単独で(あるいは少人数で)進めなくてはならな
い。メーカーの育成にはこの部分の後押しが必要と思われる。
◆ 裸にされる工芸
現在伝統的工芸品はそれが生活用具である前提より経済産業省が主管し
ているが、経済的側面以外生活文化の理解にはきわめて消極的といわざ
るを得ない。経済のエクスパートを自認する同省は、その文化解釈を文化
庁等に投げたがるが、文化庁が主管する文化は博物館に保管する宝物
(実際に文化庁が執行する予算は国宝修理・文化財修復等保存を前提と
したものがほとんどである)を対象にしており、経産省が推し進めるべき生
活文化とは異質なものである。
そのような状況により、文化についての情報は文化庁寄りのものに押され、
一般の理解も生活品よりも芸術作品を重視する傾向が強くなっている。
戦前は文化面も包括して商工省が主管しており国家事業を通じての事業
支援を積極的に行われていたイメージが強いが、現在の価値観の中では
不平等を招くような誤解で語られてしまう。

家制度の崩壊以降、個人を機軸にした資格認定も支援の形態を大いに変
化させた一因である。戦前の優秀技術保存者は店を指名しており、あくまで
ひとつの経済活動として積極的な支援をしていたイメージがあるが、人間国
宝の文化活動としてしまうとそうもいかなくなる。
経産省内の事業展開としては、伝産法が改定されるまで同業組合のみを執
行対象としていたことが予算執行の自由度を阻害し、文化としての側面を後
退させた一因となったのではないかと考えている。同業組合という組織は同
じアイテムを扱っているが、各々異なる市場を相手にしており、(一部の文化
的生産者と量産品生産者に別れるように)よっぽど総力を挙げて戦うべき阻
害用件に対するような場面以外、一体として活動できない。
文化としての事業については文化庁や宮内庁のような自由な選択を認めるべ
きであろう。
官僚の意識低下より仕事の質が変化したことも文化の弱体化を促す結果と
なっている。数年前に外務省で予算処理の不手際が指摘された頃、高額な
衣装や装飾品・絵画などの買い付けに「庶民感覚で理解できない」と批判を
受けたことがあったが、平常時には日本の高い文化意識・国力を喧伝すべ
き省庁が庶民感覚に遠慮することは理解できない。毅然とした対応がのぞ
まれるものである。
浅薄な平等感は贈答と賄賂のような基本的な区別も見えにくいものと規定し、
贈答文化も衰退させた。バックイメージを引き剥がされ、裸にされてきたこと
が生活文化とそれを支える工芸品を危機に追いやっている。

職人が生きてこられたのは、求めて保護してくれたスポンサーのおかげであ
るが、戦後の短い期間にその環境は劇的に変化している。生活文化は理解
されにくくなり、道具としての商品は芸術作品に埋没してしまい、スポンサー
はその力を使うことを許されなくなってきた。
価値観の変化に翻弄され日本文化が見えなくなってきたのは、国家(行政)に
限ったことではないのだが。
工芸の未来を憂慮してばかりもいられない。

*饗庭 智之(あいば さとし)氏プロフィール
1960年8月 京都にて出生。同志社大学経済学部卒。
京都信用金庫勤務を経て、株式会社阿以波入社。
九代饗庭長兵衛に師事。京都扇子団扇商工協同組合青年部入会、
京都伝統産業青年会出向、1993~94年同青年会会長。
1994年11月日本伝統産業青年連絡協議会を発足、
初代会長を務める(~2001年11月)。
また、1995年より、財団法人京都伝統工芸産業支援センター講師。
1999年6月より、株式会社 阿以波代表取締役に就任。
1999年通商産業大臣認定「伝統工芸士」資格を取得し、
2001年4月京都高島屋にて個展、十代目饗庭長兵衛を襲名する。
1998年、通商産業大臣奨励賞を受賞。
ホームページ : http://www.kyo-aiba.jp/index.html

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