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【No.531】日本人の中国を見る視点

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J.I.メールニュースNo.531 2011.12.01発行

日本人の中国を見る視点

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【1】 日本人の中国を見る視点
広島大学大学院社会科学研究科博士後期課程 西本 紫乃

【2】 第172回J.I.フォーラム 12月21日(水)開催予定

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【1】 日本人の中国を見る視点
広島大学大学院社会科学研究科博士後期課程 西本 紫乃

成長のペースが鈍ってきているとはいえ、着実に豊かになってきている
中国は、いまや日本人にとってとても気になる存在だ。中国で何が起こ
っているのか関心が高いのも必然だろう。しかしながら、中国について
の話題は「経済発展は目覚ましいが、その代償として貧富の格差など様
々な社会問題が出現している」という固定の文脈で語られることが一般
的だ。その根底には、国際的に力をつけつつある隣国がまだまだ発展途
上国だということを確認し、安心したいという心理がはたらいているの
かも知れない。かたや、11月6日に起きた中国漁船が日本の領海内で
操業した事件では、漁船の動きは何らかの国家の意向をうけたものでは
なかったかとの疑惑をもって、中国の軍事的野心への警戒を呼びかける
声も少なくなかった。今日の日本人にとって中国は実際以上に小さく見
えたりもするし、大きく見えたりもする。

中国共産党と中国政府が対外的な情報発信を管理しているため、日本に
いながら「ナマの中国社会」を観察するのは簡単ではない。しかしなが
ら、近年、インターネットの普及によって「ナマの中国社会」に触れる
ことが可能になってきている。私は2007年ごろからインターネット上で
の中国国民の声や、国家権力と民衆との力のせめぎあいについての調査
・研究を続けているのだが、中国社会の観察をしていると、経済発展に
よって国が豊かになり、新たな現象が起こることよりも、従来あったも
のが弱まりつつあることの方がより大きな問題なのではないかと感じて
いる。つまり、中国では、党と政府の一元的な国家権力による社会管理
が以前よりも急速に弱まってきているのではないか、ということだ。

経済が発展し、社会が豊かになればなるほど、国民の国家への依存が少
なくなり、だまってお上に従う必要も薄れてくる。個人の利害を国家が
カバーしきれなくなったところに社会的な中間層が生じる。国家が国民
を直接管理するタテ型の国家主義的なやりかたが通用しなくなりはじめ
ているのだ。

7月末に発生した高速鉄道事故の際に国民やメディアから鉄道部に対し
て厳しい批判の声が上がったのがその最たる例といえるだろう。出稼ぎ
農民の暴動も、彼らがヨコのつながりもったことで事態が拡大しやすく
なっている。年間20万人の子供が行方不明になっているほど、子供の
人権についてまだ社会全体の意識が高いとはいえない中国で、一女児の
命をきっかけに国民道徳についての議論が始まったことは、「公共の善
とは何か」を議論する新たな中間層の出現を感じさせる。中国漁船の日
本領海内での操業も、漁民たちが権力に対する畏れを感じなくなってい
るとも考えられるのではないか。

このように考えると、「中国が抱える問題は社会格差の下位に取り残さ
れた人々の不満やそのガス抜きである」という理解では不十分であるこ
とに気づく。日本に伝えられる中国社会の話題や事件の背景には、中間
層の出現とそれにともなう党と政府のパワーの弱体化という大きな構図
が見えてくる。

明治・大正期の歴史家、山路愛山は大正5年に出版された著書『支那論』
の冒頭で日本人の中国に対する偏見と対中観の深みのなさを厳しく批判
し「我々は日本人として支那に対する明白な概念に欠乏して居る」と記
す。日中間の人と情報の往来がますます増えている今日、中国について
の複雑な感情を排し、改めて「明白な概念」を探求する姿勢をもちたい
ものである。

西本 紫乃(にしもと・しの)
1972年広島県生。中国系、日系航空会社勤務などを経て、2007年~2010
年外務省専門調査員として在中国日本国大使館に在籍。現在は広島大学
大学院社会科学研究科博士後期課程在籍中。専門は中国メディア事情、
日中異文化コミュニケーション。著書に『モノ言う中国人』(集英社新
書)。

【2】 第172回J.I.フォーラム 12月21日(水)開催予定
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「新しい公共」とは何か

~NPO・公益法人などの活動を通して考える~(仮)

*詳細は決まり次第お知らせします

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