【No.661】脳科学から見た子ども虐待 (後編)|福井大学 子どものこころの発達研究センター 教授  友田 明美氏|
2014.07.03

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J.I.メールニュース No.661 2014.07.03発行

「脳科学から見た子ども虐待 (後編)」

福井大学 子どものこころの発達研究センター 教授

友田 明美

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【1】<巻頭寄稿文>

「脳科学から見た子ども虐待 (後編)」

福井大学 子どものこころの発達研究センター 教授

友田 明美

【2】<ご紹介>

(1)シンポジウム「新国立競技場とオリンピック施設計画に何が必要か?」

(2)国際シンポジウム「都市と建築の美学-新国立競技場問題を契機に」

【3】<お知らせ>
(1)第202回J.I.フォーラム  7月30日(水)開催

「持続可能な医療を考える」

(2)構想日本× PHP総研

「現場みらい塾」~地域のリーダー育成プログラム~

【4】構想日本の6月の主な活動、パブリシティ

(1) 対外活動

(2) その他

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【1】 「脳科学から見た子ども虐待 (後編)」

福井大学 子どものこころの発達研究センター 教授

友田 明美

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3.体罰による脳への影響

小児期に過度の体罰を受けると、行為障害や抑うつといった精神症状を引き起こすことが知られている。しかしながら、過度の体罰の脳への影響はこれまで解明されておらず、また、体罰を受けたヒトの脳の形態画像解析もこれまで報告されていない。一般に体罰はしつけの一環と考えられているが、驚くべきことに「体罰」でも脳が打撃を受けることがわかった。

前述した研究と併行して、小児期に長期間かつ継続的に過度な体罰(頬への平手打ちやベルト・杖などで尻をたたくなどの行為)を、4~15歳の間に受けた18~25歳の米国人男女23名と、体罰を受けずに育った同年代の健常な男女22名を調査し、VBM法を用いて脳皮質容積の比較検討をした。

体罰経験群では健常対照群に比べて、感情や理性などをつかさどる右前頭前野内側部の容積が、平均19.1%減少していた(図※1URL参照)。実行機能と関係がある右前帯状回は16.9%、物事を認知する働きなどがある左前頭前野背外側部は14.5%容積減少を認めた。特に,左下頭頂小葉の容積と、質問における“満足度”との間には著明な正の関連を認めた。

4.両親間のDVによる脳への影響

両親間のDVに曝された子どもがさまざまな精神症状を呈し、DV以外の被虐待児に比べて、トラウマ反応が生じやすいことがこれまで報告されている。しかしながら、DVに曝されて育った子どもたちの脳への影響に関する報告はわずかである。

小児期にDVを目撃して育った経験が脳の発達にどのような影響を及ぼすのかを検討した。継続的に両親間のDVを目撃経験した18~25歳の米国人男女22名と、健常対照者男女30名を対象に脳皮質容積の比較検討をした。健常群に比べ、DV経験群では右の視覚野の容積や皮質の厚さが顕著に減少していた(図※1URL参照)。

5.被虐待児のこころのケアの重要性

虐待を受けた子ども(被虐待児)たちが親になると子どもに虐待を行うという、虐待の世代間連鎖が知られている。連鎖を断ち切るためには、早いうちに虐待の現場から引き離し、社会的支援を行っていくことが必要である。何故なら、子どもの脳は発達途上であり、可塑性という柔らかさを持っているため、早いうちに手を打てば、回復することもわかっているからである。被虐待児たちが脳に受けた傷は決して見過ごしてよいものではないし、むしろ、成人になってからの「不適応」やさまざまな人格障害の原因となりうることを忘れてはならない。彼らへの愛着の形成とその援助やフラッシュバックへの対応とコントロール、解離に対する心理的治療などが必要となってくる。そうすれば、子どもは攻撃的にならずに情緒的に安定していき、他人に同情・共感する社会的な能力も備わった大人になるだろう。この過程が、ヒトという社会的動物である私たちに複雑な対人関係を可能にするだけでなく、創造的能力を開花させるものだと信じたい。

私たちは、このような「脳の傷」が決して「治らない傷」ではなく、癒やされうることを強調したい。可能な限り早期に虐待状況から救出し、手厚い養育環境を整えてやることが、子どものこころの発達には重要であろう。

小児期に受ける虐待は脳の正常な発達を遅らせ、取り返しのつかない傷を残しかねない。簡単に確かめられる傷跡ではないだけに見逃されがちであるが、身体の表面についた傷よりも根は深く、子どもたちの将来に大きな影響を与えてしまう可能性がある。何度も繰り返すが、虐待は連鎖する。虐待を受けた子どもは成長して、自らの子どもを虐待し、世代や社会を超えて悲惨な病が受け継がれていく。数え切れないほどの幼い犠牲者たちが癒やされない傷を負う前に、何としてもこの流れを断ち切らねばならない。当然ながら虐待を減少させていくためには、ひとつの職種だけではなく多職種と連携し、また、子どもと信頼関係を築き、根気強く対応していくことから始めなければいけない。

※1 https://www.kosonippon.org/wp-manager/documents/2015/mail/20140626mg660.pdf

文  献

1) 友田明美 『新版いやされない傷―児童虐待と傷ついていく脳』 東京: 診断と治療社,2012.

2) 友田明美  脳科学から見たPTSD. 『子どものPTSD』東京: 診断と治療社,2014.

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友田 明美  (ともだ あけみ)

熊本大学医学部医学研究科修了(1987年)。 医学博士。熊本大学附属病院発達小児科助教、 同小児発達学分野准教授を経て、現在、 福井大学子どものこころの発達研究センター教授。大阪大学大学院連合小児発達学研究科福井校教授、福井大学附属病院子どものこころ診療部副部長および生理学研究所客員教授兼任。著書:「新版 いやされない傷?児童虐待と傷ついていく脳」(診断と治療社、 2012年)「子どものPTSD」(診断と治療社、 2014年)など。

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【2】<ご紹介>

構想日本とご縁のある方々から寄せられた、お知らせです。
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(1)シンポジウム「新国立競技場とオリンピック施設計画に何が必要か?」

◇日時:7月12日(土)15:00-18:00

◇場所:建築家会館本館1階ホール(渋谷区神宮前2-3-16)

*会場は上記に変更になりました。
地図:http://www.jia.or.jp/map.html

◇ パネラー:
元倉眞琴、森まゆみ、坂井文、上浪寛。
コメンテーター:
芦原太郎、長島孝一。
コーディネーター:
連健夫。

◇参加費: 無料(要申込)

◇申込先:JIA事務局/メール:mohnishi@jia.or.jp ファクス:03-3408-8294

主 催:JIA関東甲信越支部、建築・まちづくり委員会
詳細→http://urx.nu/9ELX

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(2)国際シンポジウム「都市と建築の美学-新国立競技場問題を契機に」

◇日時:7月21日(月祝)14:00-17:00

◇場所:東京大学文学部法文2号館1番大教室(文京区本郷7-3-1)

地図:http://urx.nu/9ENI

◇出演者;
挨拶:小田部胤久
基調講演:槇文。
講演:初田香成
オリンピア・ニリオ
中谷礼仁
司会:岡田温司

◇参加費: 無料(申込不要)通訳付

◇問合せ先:京都大学岡田研究室/075-753-6546,7921

主 催:美学会

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【3】(1)第202回J.I.フォーラム  7月30日(水)開催
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「持続可能な医療を考える」

かつての感染症中心から生活習慣病への変化などを背景とした患者のニーズや行動の変化、それらに伴う医師や病院の対応の変化、健康管理が困難になったこと、高齢化に伴う医療、介護を一貫してみていくことの必要性、そして急増する医療費に伴う財政問題など、日本の現在の医療制度はサステイナブルではなくなりつつあります。

構想日本は現場の医者や研究者と議論を重ね、この課題に対する有力な方法として「地域健康管理医」を軸とする医療供給体制の抜本的な改革を考えました。これは制度と現場の実践の両サイドから進めていく必要があります。

医者、学者、国など各分野のエキスパートにお集まりいただき、大いに議論します。

○日 時 : 平成26年7月30日(水)18:30~20:30(開場18:00)
※日程変更しています。

○会 場 : アルカディア市ヶ谷 鳳凰の間
千代田区九段北4-2-25 TEL 03-3261-9921
http://www.arcadia-jp.org/access.htm
※いつもと場所が違います。ご注意ください。

○ゲスト : 土屋 了介(神奈川県立病院機構 理事長)

西村 周三(医療経済研究機構 所長) ほか

○コーディネーター:加藤秀樹(構想日本代表)

○定 員 : 120名

○参加費 : 一般 2,000円 / 学生 500円
(シンクネット・構想日本会員は無料です)
※学生の方は受付にて学生証をご提示ください。

○懇親会参加費 : 4,000円(ご希望の方は懇親会参加と明記してください)

※ゲストを囲んで懇親会を開催いたします。

「市ヶ谷 河岸番外地」 千代田区五番町2-23 NKIビルB1F
TEL 03-3265-8595
http://urx.nu/9N4E

※ フォーラムへの参加はHPのフォームから、もしくはこのメールにご返信を
お願いします。
( http://www.arcadia-jp.org/access.htm )

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(2) 「現場みらい塾」~地域のリーダー育成プログラム~

地域のリーダー育成プログラム「現場みらい塾」が始まりました。

6/21,22(土、日)に実施した第1回は「どのような未来が起こり得るか」というテーマで参加者間で自由に議論する「ワールドカフェ」、元我孫子市長の福嶋浩彦さんの「自治とは何か?」、構想日本代表加藤の「公は官か?」など、非常に内容の濃い2日間でした。

少し内容をご紹介します。

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第2講「自治とは何か」福嶋浩彦さん(中央学院大学教授、前我孫子市長、前消費者長官)

「自治とはお金をもらうことではない。私が(私たちが)責任をもってやること。権限をくれという人もいるが違う。自治体はいまある権限をほとんど使っていない」

「2000年の地方分権一括法制定以降、通達はなくなった。通知はあくまでも技術的助言。強制力はない。問題になるのは法律の解釈。自治体はよく官庁に聞く。官庁は一般論は言うが個別の解釈はそれぞれの自治体にゆだねることが多い。しかし自治体は結論を欲しがる」

「現行法では国の言うことを自治体が聞く必要はないことになっている。是正の要求をするのは自治体ではなく国。国の要求が納得いかなければ「国地方係争処理委員会」に提訴すれば良い。そこまで揃っているのに、果たして今自治体はそれだけの権限を使っているか」

「我孫子市朝時代、介護保険導入時に厚生省の要介護認定システムがおかしかったので、我孫子は独自のシステムを使おうとした。厚生省からすぐに独自のシステムを使うなと言ってきた。職員は厚生省には独自システムを使わないと言っておいて実際には使おうと言っていたが」

(ディレクター伊藤の実況ツイートより。続き及び他の講義の様子はこちら(http://togetter.com/li/684950)からご覧いただけます。)
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第2回は「子ども医療費無料化措置の是非」をテーマにディベートを行い、第3回は自らの事業を仕分けの目線で振り返る「模擬事業仕分け」を行います。座学だけではなく体験しながら吸収してくことに主眼を置いています。

第2回、第3回のみのご参加も可能です。
主に自治体職員を対象としていますが、地方議員や民間の方など、行政関係者以外の方のご参加も大歓迎です(各回単発の参加も受け付けています)。

○日 時 :【第2回】平成26年7月 5日(土) 6日(日)
【第3回】平成26年7月26日(土)27日(日)

※いずれも土曜日13時~18時、日曜日9時半~15時半
※各回のみのご参加も可能です。ご相談ください。

○場 所 : 各回、PHP研究所 2階ホール
(東京都千代田区一番町21番地 東急ビル)

○参加費 : 【各回参加】1万2,000円 (食事、宿泊費別)

○主 催 : PHP総研、構想日本

○参加申し込み:
PHP総研ホームページ
(http://research.php.co.jp/event/2014/06/21.php)よりお申し込みください。

お問い合わせは
PHP総研:今井 TEL 03‐3239‐6222
構想日本:伊藤/田中 TEL 03‐5275‐5607 まで

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【4】構想日本の6月の主な活動、パブリシティ
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(1)対外活動

<講演・研修等>

6月16日 所沢市民倶楽部「傍聴席」月例会 「事業仕分けと施設仕分け」
(総括ディレクター 伊藤伸)

6月21日 海陽学園 特別講義 「ものを考えよう」
(代表 加藤秀樹)

6月21日、22日 「現場みらい塾」~地域のリーダー育成プログラム~ 第1回
(主催:構想日本、PHP総研)

6月23日 慶応大学湘南藤沢キャンパス 「未来構想ワークショップ」
(総括ディレクター 伊藤伸)

6月26日 法政大学大学院 「市民社会ガバナンスと政治」
(総括ディレクター 伊藤伸)

※その他、自治体との打ち合わせ12件

<審議会>

6月12日 松阪市 公共・公用施設施設最適管理検討委員会
(政策アナリスト 川嶋幸夫)

6月27日 第1回 新潟市 行政改革点検・評価委員会
(総括ディレクター 伊藤伸)

(2)その他

4月~ 隔週金曜日 京都大学経済学部 「公共経営論」講義
(代表 加藤秀樹)

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