【No.765】「長崎で考えたこと ― 熊本地震、出島、NIMBY」|慶應義塾大学 特別招聘教授 柏木 茂雄氏|
2016.07.14

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J.I.メールニュース No.765 2016.07.14  発行

「長崎で考えたこと ― 熊本地震、出島、NIMBY」

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【1】<巻頭寄稿文>

「長崎で考えたこと ― 熊本地震、出島、NIMBY」

慶應義塾大学 特別招聘教授 柏木 茂雄

【2】<お知らせ>

(1) 第226回J.I.フォーラム  7月29日(金)開催 決定

(2) 今後の構想日本の活動

(3) Yahoo!ニュースオーサー記事更新!

(4)「現場みらい塾」 第4期 募集中【河野太郎大臣が講師に!】

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【1】 「長崎で考えたこと ― 熊本地震、出島、NIMBY」

慶應義塾大学 特別招聘教授 柏木 茂雄

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先日、講演のため長崎に出張する機会があった。その際、一見直接関連しないものの、あるつながりを持った三つのことが頭に浮かんだ。

まず、自宅でテレビを見ていたとき、熊本で全壊した自宅の前で座り込んでいた老人が語った言葉が強く心に残った。「5年前、東北大震災の報道を見たときは大変だと思いつつ、自分にはこのようなことは起きないだろうと思っていた。しかし、今回まさに自分がこのような被害を受け、自分が間違っていたと痛感した。気が付くのが遅すぎた。」と沈みがちに話されていた。我が身を振り返り反省すべき言葉として突き刺さり、加藤代表が主張している「自分事」を思い出すこととなった。

講演後、長崎で出島を見学した際、似たような点を強く意識することとなった。出島は、我が国の鎖国時代に海外に対して開かれた唯一の窓口として貿易・文化の面で大きな役割を果たした場所である。現在、当時の建物や街並みを修復・復元する事業が進行中であり、鎖国時代の出島の雰囲気を味わえる興味深いスポットとなっている。

当時の出島が果たした役割は大きく、現在でも新しい考え方を積極的に取り入れるための仕組みとして「出島マインド」をポジティブにとらえる見方が強い。特に九州では、最近、アジア諸国との間でモノ、サービス、ヒトのつながりが強くなっていることを受け、九州全体を「出島」のように考えようとする提言もあると聞く。

このような考え方に異論はないものの、私には「出島」が持つ面白い二面性のように映った。私自身、我が国のグローバル化への対応等について話す際「出島メンタリティーから脱却すべし」というフレーズをしばしば使ってきたからである。

「出島メンタリティー」というのは私の造語ではないが、鎖国時代、江戸に居住する幕府幹部の持っていた考え方を指している。当時の幕府中枢にとって国内案件の処理こそが最重要課題であった。国内案件に専念し、これを無難にこなしてきた人物が幕府中枢の主要ポストに就くことが多かった。

一方、海外関係の案件は面倒なものであり、自分たちは無関係でありたいものとしてとらえられていた。

海外案件の処理は長崎駐在の長崎奉行を筆頭に、海外の課題を専門的に扱う人々に任されていた。そして、長崎奉行が幕府の主流派となることは少なかった。「平家、海軍、国際派」※と言われる考え方がすでに出来上がっていたと言える。

近年グローバル化の進展を受け、このような考え方は一掃されたと断言できるだろうか。残念ながら、この発想はまだ我が国に蔓延っているのではないか、というのが私の懸念であり「出島メンタリティーからの脱却」を主張する所以である。

今日でも多くの組織において「国際部」が設けられ、海外案件の処理を任されている例が多い。そして組織のトップは国内部署を務めた人が占め、将来的にトップを目指す若い人たちは、いわゆる「国際派」となることを敬遠する傾向がある。

もちろん真のグローバル企業ともなれば、国内外一体の経営が行われ、海外で優秀な成績を修めた人がトップに就く例も多い。しかし、我が国ではまだ「出島的発想」が強いと言えるのではないだろうか。

今後グローバル化の一層の進展は不可避であり、日本国民誰もが直面せざるを得ない問題となってきている。これまであまり見られなかった地方都市にも外国人観光客が大勢押し寄せてきている。本邦企業が外国企業によって買収されたり、合弁、提携が進められるというケースも増えてこよう。ある日突然、自分の取引先、上司、同僚に外国人が来るという事態が今後一層増加してくるであろう。

グローバル化に伴う具体的出来事は、出島のように海外との接点を担う一部の特殊な人たちが経験する話ではなく、誰もが直面する話になりつつある。「内なるグローバル化」が求められる所以である。グローバル化も「他人事」ではなく皆が「自分事」としてとらえる必要のある問題であることを再認識した次第である。

最後に、「自分事」とは、皆が自分のことや自分の考えをただ強く主張しさえすれば良いということではない、という点も頭に浮かんだ。以前から米国で使われている言葉として「NIMBY」というものがある。これはNot In My Back Yardの略語であり、文字通り「自分の裏庭には困ります」という意味である。民主主義の発達した米国であっても、地域のごみ処理場を建設する際、建設予定地の近隣住民の了解を取るのが難しいケースが多いようであり、そのような動きを表現する言葉として使われる。

我が国でも、原発、米軍基地、ごみ処理場にとどまらず、最近では火葬場や保育所の設置を嫌がる住民運動もあるようだ。いずれも総論としての必要性は分かるが各論として自分の「裏庭」に作られるのはなかなかイエスと言えないのかもしれない。しかし、こういった地域全体のこと皆のことこそ、一人ひとりが「自分事」として考える努力をすべきなのではないだろうか。

そうは言いつつも、他人事と自分事のバランスのとり方は難しいものだと考えさせられる長崎出張となった。

※ 日本での非主流派。格好は良いが中身が伴わず、最終的に勝ち残れないという意味合いで使われる。

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柏木 茂雄 (かしわぎ しげお)

慶應義塾大学経済学部卒業後、大蔵省(現財務省)入省。米国プリンストン大学修士。国際通貨基金(IMF)及びアジア開発銀行に合計12年間出向。財務省退官後、慶應義塾大学大学院商学研究科教授に就任。本年4月より現職。これまでの行政経験、国際経験を踏まえ、日本経済、財政政策、国際金融等、生きた経済を英語で教えている。特定非営利活動法人「国際人材創出支援センター」理事も務める。

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【2】(1) 第226回J.I.フォーラム  7月29日 開催 決定

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イギリスのEU離脱の歴史的な意味

イギリスの国民投票の結果には、世界中が驚き、日本では多くの人が「愚かなこと」と思っている雰囲気です。

しかし長い目で見ると、EUのような地域統合を含めて、人為的、制度的にグローバル化を進めていくことへの抵抗、あるいは限界とは考えられないでしょうか。アメリカのトランプ現象などにも通じるものを感じます。

今回のフォーラムでは、財政社会学と国際経済の専門家に、EUやイギリスの離脱を材料として、先進諸国が目指し、私たちが当然と思っている経済、政治の広域化の将来を私たちはどう捉え、何を考えなければならないのかを議論したいと思います。

◯日 時:平成28年7月29日(金)   ※ 18:00~20:00 (開場17:30)

◯会 場: 衆議院憲政記念館   永田町1-1-1

※ 開始時間、場所がいつもと違います。 ご注意ください。

◯ゲスト : 井手 英策 (慶応義塾大学 教授)

榊原 英資 (青山学院大学 教授)

◯コーディネーター:加藤 秀樹(構想日本代表)

◯主 催:構想日本

◯定 員:100名

◯参加費:一般 2,000円 / 学生 500円 (構想日本会員は無料です)
※学生の方は受付にて学生証をご提示ください。

◯懇親会参加費:4,000円(ご希望の方は懇親会参加とお申込み時に明記して下さい)
※フォーラム終了後、ゲストを囲んで、懇親会を開催いたします。

「レストラン ペルラン」 千代田区永田町1-11-35 全国町村会館 TEL03-3581-0471

※フォーラムへのご参加は7月29日(金)12:00まで info@kosonippon.org  にお願いします。

お申し込みはこちらから https://www.kosonippon.org/wp-manager/forum/index.php

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(2)《今後の構想日本の活動》

《その他》

2016年4月~隔週月曜日 京都大学経済学研究科・経済学部 特殊講義「公共経営論1」 (代表 加藤秀樹)

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(3)Yahoo!ニュースオーサー記事更新!

Yahooニュースにオーサーとして投稿している記事が更新されました。ぜひ御覧ください。

代表 加藤秀樹

◇3月8日 防災を「自分事」に

http://bylines.news.yahoo.co.jp/katohideki/20160308-00055180/

ディレクター 伊藤伸

◇6月24日 18歳以上なのに投票ができない? ~下宿中で住民票を移動していない学生有権者は選管に確認しよう!~

http://bylines.news.yahoo.co.jp/itoshin/20160624-00059168/

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(4)【河野太郎大臣が講師に!】 「現場みらい塾(構想日本×PHP総研)」

第4期開講 受講生募集!

税収、人口の奪い合い(=ゼロサム)ではなく、プラスサムを!

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人口減少、高齢化、不十分な予算と人員など、自治体にとってはますます厳しい時代です。政府の「地方創生」も続きそうにありません。

自治体間で税金や人口の奪い合いをするのはゼロサム、つまり持続可能ではありません。

それでも、視点を変え、従来の延長線上で考えることをやめると、解決策が見えてくるのです。

この塾は、従来型の研修ではありません。自治体のどの仕事にも応用できる、「知恵の出し方を身につけるトレーニングの場」です。

他自治体の職員、議員、民間人と一緒に半年間議論し、学び合うゼミ形式のプログラムです。受講生はこれまでに約70名。

問題意識の高い自治体職員、議員のネットワークも大きい財産です。

ここから日本が変わります。

― 第4期カリキュラム ―  ※現時点の予定ですので、変更の可能性があります。

【内 容】

第1回:7月30日(土)13:00~18:30、31日(日)10:00~16:00
実践:問題発見と構造分析
モデレーター:熊谷 哲 〔PHP総研 主席研究員〕
講義:「ゼロサムからプラスサムへ」
加藤秀樹 〔構想日本 代表〕
講義:「日本のこれから(仮)」
河野太郎 〔行政改革担当大臣〕

第2回:8月27日(土)10:00~18:00
講義:ディベートで培う実践的思考
熊谷 哲 〔PHP総研 主席研究員〕
実践:ディベート
熊谷 哲 〔PHP総研 主席研究員〕
講義:「事業シートで業務の画期的な効率化を」
伊藤 伸 〔構想日本 総括ディレクター〕

第3回:9月24日(土)10:00~18:00
講義:「財政の自分事化に向けて~国の財政と地方の財政~」
福田 誠 〔財務省 国有財産企画課 政府出資室長〕
講義:「無作為抽出の住民参加で地域の課題を『自分ごと』に」
伊藤 伸 〔構想日本 総括ディレクター〕
実践:模擬事業仕分け1/手法を学ぶ

第4回:11月5日(土)13:00~18:30、6日(日)10:00~16:00
実践:模擬事業仕分け2/チームで体験する
実践:事業シートプレゼンテーション/発表から体得する
セッション:「『わたしのまち』と一人称で呼んでもらえる町を目指して(仮)」
筒井 敏行 〔香川県三木町 町長〕
実践:締めくくり総括ディスカッション

【応募資格】
地域をよりよくしたいという情熱を持ち、地域の課題解決と未来創造のために、自ら考え行動する意志のある人

【募集人員】 50名程度

【会  場】  PHP総研会議室
(江東区豊洲5-6-52 NBF豊洲キャナルフロント11階)

【参 加 費】  37,800円(税込)※旅費・食費等は含まれません

【応募手続き】

現場みらい塾申込みサイト(以下のリンク先)に入力し送信

https://docs.google.com/forms/d/1AaZhsGk6sCIS-UEOtw_VWMgdL6elYrMxwr8UuBAn7dY/viewform

定員に達し次第、締め切らせていただきます。

【お問い合わせ】

構想日本:田中、小川、永由 TEL:03‐5275‐5607、Email:info@kosonippon.org
PHP総研 :皆川      TEL:03‐3520‐9612、Email:genba-mirai@php.co.jp

その他詳細はこちら https://www.kosonippon.org/wp-manager/project/detail.php?id=713

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