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【No.86】ロックの信託説に立ち戻る

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ロックの信託説に立ち戻る
JIメールニュースNo.86  2003.2.21
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■■ 目次 ■■
《国家は誰のものか》ロックの信託説に立ち戻る
構想日本政策アナリスト  桜内 文城
(新潟大学助教授)

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《国家は誰のものか》ロックの信託説に立ち戻る
構想日本政策アナリスト  桜内 文城
(新潟大学助教授)
改めて問う。国家は誰のものか。
そんなこと誰でも知っている。「主権が国民に存する」(憲法前文1
段)とされている以上、国家は「国民のもの」に決まっているじゃないか。
改まって訊かれても困る・・・という声が聞こえてきそうである。
では、その「主権」とは何か。「国民」とは誰を指すのか。
実は、我が国憲法において、「主権」という言葉は、わずかに前文と
第1条に見られるに過ぎない。国民主権、主権在民とは言うものの、その
「主権」という言葉が意味するところは必ずしも明確ではない。それだけ
ではない。憲法上、基本的人権が付与される対象である、とされる「現在
及び将来の国民」(11条)さえも、必ずしも法律上の要件によって判断で
きるような代物ではなく、非常に曖昧な概念である。
そこで、「国民主権」、「民主主義」といったものについて、少し掘り
下げて考えてみよう。
伝統的には、国家統治に係る意思決定の権限を有する者の数によって、
以下のように政体の区別がなされる。
(a) 意思決定者が一人である君主制
(b) 意思決定者が複数ではあるが、構成員全員ではない寡頭制
(c) 構成員全員が意思決定に参加する民主制
現在の日本は、ご存じのように(c)民主制の国家である。
更に、構成員全員が意思決定に参加する民主制にしても、その意思決定
の適否をチェックする仕組みの観点から、二つのモデルに分けられる。
(c)-1直接参加モデル;構成員全員が文字通り直接意思決定に参加する形
態(直接民主制)、または、「全国民を代表する選挙された議員」(43条
1項)というフィクションを通じて、構成員全員が直接意思決定に参加す
るものと擬制される場合である。
(c)-2間接参加モデル;通常、構成員の一部しか意思決定に参加しておら
ず、従って、意思決定者とその意思決定によって影響を被る人々とが分離
してしまう。但し、後者(大多数の国民)は、通常、意思決定に直接参加
しなくとも、「業績不振の意思決定者」を解任する権限をもっていること
によって、自らの利益を守ることができるという意味で、ガヴァナンス
(意思決定の規律付け)のメカニズムを通じた間接的な意志決定への参加
をしていると言える。
憲法上、日本は(c)-1 直接参加モデルの民主制国家であると考えられる
が、果たして国民のうち、どれだけの人々が「国会における代表者を通じ
て行動」(前文1段)していると実感しているであろうか。また、本当に
自らの利益を守ることができているだろうか。
この二つのモデルを比べてみると、意思決定の適否をチェックする仕組
みに関して大きい違いがある。そして、それこそが、ガヴァナンスのメカ
ニズムにおいて、決定的な違いをもたらすのだ。
「直接参加モデル」の場合は、日本のように「全国民を代表する選挙さ
れた議員」(43条1項)によって構成される国会を「国権の最高機関」
(41条)と位置付け、国家統治に係る意思決定の全てを委ねれば済む。国
民は、自ら意思決定に直接参加したものとみなされるからである。
しかし、「間接参加モデル」の場合、通常、意思決定には参加できない
にも関わらず、その影響を被る人々の利益を守るためには、意思決定を委
ねられた者の責任を明確化し、その意思決定自体を規律付けるガヴァナン
スのメカニズムが必要になってくる。
この分類に従えば、「国民主権」のとらえ方も違ってくる。まず、(1)
「主権」を国家統治に係る「意思決定に参加する権限」と位置付け、国民
全員がその権限を有するとするアプローチ(直接参加モデル)。この場合
の「国民」は、現実に意思決定に参加する意思と能力を兼ね備えた人々に
限定される。例えば、将来世代の国民は、この種の「主権」を持ち得ない。
もう一つは、(2)政府と国民との関係を信託関係として位置付け、憲法
制定時の国民を信託設定者(委託者)、国家統治に係る意思決定を行う政
府(我が国の場合、国会及び内閣)を受託者、そして、「現在及び将来の
国民」(11条)を受益者とするアプローチである。この場合、「主権」と
は、現在及び将来の国民の「受益者としての権限(信託受益権)」を意味
し、更に、その利益を守るため、政府(受託者)の意思決定を規律付ける
ガヴァナンスのメカニズムが必要とされる(間接参加モデル)。
間接参加モデルの信託的な考え方には、違和感を覚える向きも多いよう
であるが、憲法の「そもそも国政は、国民の厳粛な信託による・・・」(前
文1段)という文言に見られるように、民主主義の一つのとらえ方である
ことは間違いない。その元をたどれば、アメリカの独立宣言やジョン・ロ
ックの所説に突き当たるのであるが、要は、コモン・ロー(普通法)の世
界では、妥当な結論を得られない場面で救済法として機能するエクイティ
(衡平法)の主要領域として発達した。その考え方によると、受益者は、
単なる債権者としてではなく、エクイティ(衡平法)上の物権(無体財産
権)を有する者として、より強い保護を受ける。特に、受託者が受益者の
利益を害するような意思決定や行動をとる場合には、受益者は受託者を解
任し、信託財産を取り戻す権利を留保している。
確かに、直接参加モデルは、「自らのことは自ら決める」という意味で、
民主主義の基本とも言える。特に、戦後の民主教育の成果の賜物か、我が
国においては、「国民主権」、「民主主義」と言えば、「多数決」による
意思決定への直接参加を意味する傾向が強いように思われる。しかし、直
接参加モデルにも自ずと限界がある。それは、現実には、意思決定に参加
できる者とそうでない者とに分かれてしまうということである。
現在でもスイスに残ってはいるが、現代社会において国の構成員一人一
人が多数決に参加することはきわめて難しくなってきている。働き盛りの
大人を考えてみても、それぞれの生活を重視し、近頃では選挙の投票さえ
行かないこともある。とても議論を重ね、意志決定への直接参加をすると
いう状況にはない。
また、過去、現在、未来にわたる時間軸上の資源配分とも言われる財政
運営について、強い利害関係を有するはずの将来世代の国民は、意思決定
に参加する術を持たない。直接参加といいながらも、声無き声を政策に反
映させるシステムには、なっていないのが現状である。
間接参加モデルとその信託的な考え方は、ジョン・ロックの時代(17世
紀末)やアメリカ独立革命(18世紀後半)の頃の遺物でしかないという意
見も聞く。しかし、現在の我が国の政治及び経済の状況を顧みるとき、政
府の意思決定をいかにして規律付けるのか、将来世代の利益をどのように
して守るのか、といった意味で、改めて立ち戻るべき民主主義の原点では
ないかと思う。(条文は全て日本国憲法からの引用)
今回は、「国民主権」についての基本的な問題提起にとどめ、本題であ
る国家論、特に、その「ガヴァナンス」については、次の機会に譲りたい。
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