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【No.87】生物としての「ヒト」の理解

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生物としての「ヒト」の理解
JIニュースNo.87  2003.2.28
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■■ 目次 ■■
《政策の死角》生物としての「ヒト」の理解

構想日本政策委員 長谷川眞理子
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《政策の死角》生物としての「ヒト」の理解

構想日本政策委員 長谷川眞理子

●ブッシュマンは、私たちと同じ人間?
数年前になるが、外務省の高官を勤めたことのある人物と、パーティの
席で隣り合わせたことがあった。私が人類学の出身であることを聞くと、
その人は、「アフリカのブッシュマンなどは、私たちと同じ人間なのです
か?」と尋ねた。私は耳を疑ったが、その人は本気で、人種の違いは亜種
レベルの違いなのかどうかを知りたがっていた。
事実は、地球上のすべての人間はホモ・サピエンスという一種に属する
のであり、人種内部での個体差の方が人種間での差異よりもずっと大きい。
先の話は極端な例なのかもしれないが、人間についての生物学的な知識
は、決して日本の教育の中で大きく扱われてはいない。それどころか、さ
まざまな誤解と無知が渦巻いている。しかし、ヒトゲノムの解読、遺伝子
技術その他の発展などによって生じる問題から、国際紛争、人種差別、女
性の社会進出、少子化などの社会問題に至るまで、ヒトを生物学的に理解
することは、これからますます重要になってくると私は考えている。
社会科学系の学問では、ヒトを生物学的に理解することに反発を感じる
人が多い。それは、人間の生物学的理解ということが、すなわち遺伝決定
論であり、「人間は生物学的にこのように作られている」ということが、
「だからそれは変えられない、変えるべきでない」という議論になり、結
局は、社会の不平等その他の現状を肯定する議論に導くからだということ
らしい。
しかし、この議論はすべて間違っている。遺伝子は決定論的に形質を生
み出すものではないし、生物学的な事実に対する叙述が、自動的にある特
定の価値観を肯定する根拠とはならないし、また、生物学的な事実を無視
して理念を実現しようとするのが正しい道だとも限らない。

●人種間に意味のある差異は存在しない
人種は、皮膚の色や顔の形状など、よく目に付く少数の形質だけによっ
て人類集団を分類しようとする試みであるが、その他の目に見えない形質
の遺伝子もすべて考慮すると、普通の人々が思っているように簡単に分類
できるものではない。たとえば、目の色でわけたときの人種の切り分け方
と、ある種の酵素タンパク質の変異で切り分けたときの人種の分け方とは
一致しない。つまり、一貫して白人、黒人などと分ける分け方は存在しな
いのである。
なぜなら、人類は、過去5万年ほどの間に世界中に広まっていった、非
常に「新しい」生物であり、集団ごとのさまざまな差異が固定的な差異と
なるほど、まだ長い歴史を経てはいない。そして、集団ごとのさまざまな
差異は、ローカルな生態に対する適応と、無意味な偶然の変化と、人々の
通婚範囲に規定された遺伝子流動の混合した結果なのである。
一貫して矛盾なく分けられる人種という実体は存在しないし、私たち人
間はみな同じホモ・サピエンスという一種に属するという生物学的知識は、
人種差別の撤廃の実現に何らかの意味を持つだろうか?
生物学的知識は事実の叙述であり、人種差別の撤廃は一つの価値判断、
理念である。この2つの間には、直接の関係はない。しかし、事実の叙述
は、価値判断に影響を与えるだろう。人種差別を正当化する議論はいくつ
かあるだろうが、少なくとも、生物学的な証拠をもってその議論を補強す
ることはできなくなるからだ。
人種の例の場合、「人種間に意味のある差異は存在しない」というのが
生物学的な事実であるので、政治的に受け入れられる価値観と矛盾しない。
しかし、これがもし、「人種間には、意味のある差異が存在する」という
のが結論であった場合には、その事実は、価値判断にどのような影響を与
えるだろうか? それは、難しい問題の箱を開けることになる。だから、
生物学的な事実とはつきあいたくないと思う人々が多いのだろうが、事実
を無視するのは知的に脆弱な態度である。
ていねいに、論理的に、事実と価値判断との関係を、一つずつ解きほぐ
していかねばならないだろう(続)。
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