- 【No.742】「初心を振り返る ― 新国立競技場採択案をめぐって」|建築家・一般社団法人OSAジャパン(会長) 坂田 泉氏|
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J.I.メールニュース No.742 2016.02.04 立春 発行
「初心を振り返る ― 新国立競技場採択案をめぐって」
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【1】<巻頭寄稿文>
「初心を振り返る ― 新国立競技場採択案をめぐって」
建築家・一般社団法人OSAジャパン(会長) 坂田 泉
【2】<お知らせ>
(1) 第221回J.I.フォーラム 2月29日(月)開催
「 紛争、テロ、難民、その本質を考える そして、 私たち、日本、がするべきこと。出来ることを考える。」
(2) 今後の構想日本の活動
(3)「現場みらい塾」 第3期 開催中
【3】構想日本 2016年1月の主な 政策実現活動
【4】構想日本 2016年1月の主な 新聞・テレビ等メディア掲載
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【1】「初心を振り返る ― 新国立競技場採択案をめぐって」
建築家・一般社団法人OSAジャパン(会長) 坂田 泉
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私は30年近く前川國男建築設計事務所に在職した建築家です。一昨年『新国立競技場をめぐるふたつの後悔』※という文を載せてから1年余り。紆余曲折の末、新国立競技場計画案に「A案」が選定されたことは、周知のとおりです。ここで、一連の顛末を振り返り、少し所感を書き留めます。
従来、公共建築物の「設計」は、建設会社に発注されることはありませんでした。建設会社が担当するのは「施工」のみ。建設会社から設計を分離することで、設計者に設計と施工の監理を徹底させるためです。
これを(公共建築における)「設計施工分離」の原則といいます。
この原則のために、公共建築の設計を志すもの(私もそのひとり)は、建設会社設計部ではなく、独立した建築設計事務所に進みました。
「設計施工分離」に対して、設計と施工を同じ主体が担うのは「設計施工一貫」と呼ばれます。
例えば、一昔前の大工さんが一般の家を建てるときは、間取りも工事も同じ大工が「設計施工一貫」で行いました。口頭の注文だけで、ご近所と同じような家をそれなりの費用で建ててくれたものです。できあがった家や請求書を見て、びっくりするようなことはありませんでした。このような場合、「設計施工一貫」は理想的な方法ともいえます。
しかし近代以降、複雑な機能を備え、規模も金額も大きな建物を建てるような場合、とりわけ、市民の税金で建設、維持、運用される「公共建築」の場合、「設計施工分離」の原則が採られました。
「施工」を主な業務とする建設会社には「設計」を公正に行うことが難しいからです。
建設会社には施工で利益を出さなければならない宿命があります。建設会社の「設計施工一貫」では、工事がしやすく、利益を出しやすいように、設計に圧力がかけられることがあり得ます。
例えば維持管理費を減らすために、工事は難しくなるけれど、将来ボリュームを小さくできるような競技場を設計したとします。そういう設計は、建設会社の利益につながらないので、「設計施工一貫」の体制では、採用されにくいと思います。
本来、設計と施工では優先すべき価値が異なります。
それらはどちらかがどちらかを優先するのではなく、明確に分離した上で、相互の監視のもと、共に実現されるべき独立した価値と考えるべきでしょう。
さて、今回の一連の騒動は、公共建築のシンボル的なオリンピックのメインスタジアムを、建設会社主導の「設計施工一貫」へ誘導するための大芝居だったと見るのが一番分かりやすいです。
そして真の勝者は、筋書きどおりに大芝居を終えることのできた建設会社勢力と言えます。
これを機に、多くの公共建築は「設計施工一貫」で発注されるようになり、本来、設計や施工を独立した立場で監理すべき設計者の存在は希薄になるでしょう。
そこで、私はここでもう一度、なぜ公共建築における「設計施工分離」という原則を私たちの先達が選択したのか、その初心を振り返ってみるべきだと思います。
1964年の東京オリンピック。神宮の森を背景に今もなお躍動感あふれる雄姿を見せる第一体育館は、「設計施工分離」の原則のもと、建築家丹下健三の設計、清水建設の施工によって生まれた偉業です。
丹下は建築家として遠慮のない構想を練り上げ、建設会社はその施工技術の粋をもってそれに応えました。独立分離だったからこそ、それぞれが本領を発揮し、その融合として、あの体育館が実現したのではないかと思います。
そして、半世紀。新しい国立競技場は、建築家と建設会社の連名での提案による「設計施工一貫」で造られることになりました。この結果が、私たちがこの50年で「何を得たか」ではなく、「何を失ったか」を明らかにするのではないかと私は心配しています。
営利を優先する建設会社の立場は理解されるべきです。ただし、独占的であってはなりません。とりわけ、市民の貴重な財産となる公共建築においては、建設会社から独立した立場で、市民や社会の利益を守ってきた建築家の「初心」を私たちは今こそ思い起こすべきだと思います。
※「新国立競技場をめぐるふたつの後悔」 http://db.kosonippon.org/mail/detail.php?id=687
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坂田 泉 (さかた いずみ)
1955年、東京生まれ。1982年、京都大学工学院研究科修士課程修了。前川國男建築設計事務所在職中の1994年から1年間、JICA(国際協力機構)派遣専門家としてケニアのジョモ・ケニヤッタ農工大学にて建築教育に従事。2011年、一般社団法人OSAジャパン(http://osa-rainbow.com/)を設立、会長に就任。現在は、株式会社LIXILとの「循環型無水トイレ」、「超節水型トイレ」の開発や、株式会社Looopとジョモ・ケニヤッタ農工大学と「ソーラー・シェアリング」(農地の上空にソーラーパネルを設置し、営農と発電を両立させる技術)の実証実験をケニアで進めている。
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【2】(1)第221回J.I.フォーラム 2月29日(月)開催
「 紛争、テロ、難民、その本質を考える そして、 私たち、日本、がするべきこと。出来ることを考える。」
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◯日 時:平成28年2月29日(月) 18:30~20:30(開場18:00)
◯会 場:日本財団ビル2階 大会議室 港区赤坂1-2-2 TEL 03-6229-5111
◯ゲスト:アブディン モハメド オマル Mohamed Omer Abdin(東京外国語大学 特任助教)
瀬谷ルミ子(NPO法人日本紛争予防センター 理事長) 他
◯コーディネーター:加藤 秀樹(構想日本代表)
◯主 催:構想日本
◯共 催:渥美国際交流財団
◯定 員:160名
◯参加費:一般 2,000円 / 学生 500円 (構想日本会員は無料です)
※学生の方は受付にて学生証をご提示ください。
◯懇親会参加費:4,000円(ご希望の方は懇親会参加とお申込み時に明記して下さい)
※フォーラム終了後、ゲストを囲んで、懇親会を開催いたします。
「頤和園(いわえん)溜池山王店」港区赤坂1-1-12 TEL 03-3584-4531
※フォーラムへのご参加は2月29日(月)12:00まで info@kosonippon.org にお願いします。
お申し込みはこちらから http://kosonippon.org/wp-manager/forum/index.php
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(2)《今後の構想日本の活動》
《行政関係》
2016年2月 7日(日)神奈川県 伊勢原市議会(創政会)事業仕分け
2月13日(土) 滋賀県 高島市「市民ワークショップ」第2回
2月13日(土) 茨城県 行方市「第6回なめがた市民100人委員会」
2月28日(日) 福岡県 大刀洗町事業仕分け
今年度の実施一覧はこちらからご覧いただけます→ http://kosonippon.org/wp-manager/blog/?page_id=145
《その他》
2015年10月~隔週月曜日 京都大学経済学部 「公共経営論2」講義 (代表 加藤秀樹)
公共政策の各論を毎回ゲストの講義で進めました。ゲストは、
衆議院議員 河野 太郎氏、京都信用金庫 理事長 増田 寿幸氏、株式会社商工組合中央金庫 執行役員 小林 利典氏、財務省 近畿財務局長 武内 良樹氏、財務省 主税局主税企画官 関 禎一郎氏、厚生労働省 社会・援護局福祉基盤課福祉人材確保対策室長 榊原 毅氏、南日本ヘルスリサーチラボ代表・医師・前夕張市立診療所長 森田 洋之氏、前松阪市長 山中 光茂氏、浜松市長 鈴木 康友氏、外務省 高田 真理氏、小西美術工藝社 アトキンソン・デービッド・マーク氏、元ラグビーワールドカップ日本代表 平尾 剛氏。
2015年9月~毎週木曜日 法政大学 「NPO論II」講義 (総括ディレクター伊藤伸)
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(3)「現場みらい塾」 第3期 募集中
政策シンクタンクPHP総研と共同で昨年度スタートした「現場みらい塾」。
その特徴は、
1.地域経営の第一線で活躍している講師陣
2.最先端の政策や手法のトレンドを学びとる講義プログラム
3.自ら考え、取り組むことで体得する実践プログラム
昨年の第1期受講生の反響と要望の大きさを考え、今年度は第2期(5月~8月)に続き、第3期(11月~2016年2月)を開講することとしました。
自治体職員を主な対象としていますが、それ以外の方も参加可能です。是非お申込みください。
また、講義は4回ですが、内容は毎回独立していますので1回づつの参加もできます。
『第3期』は次の通り ※日程が変更になりました
第4回:2016年2月6日(土)13時~18時半、7日(日)10時~16時
その他詳細はこちら
http://research.php.co.jp/event/2015/11/22.php
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【3】構想日本 2016年1月の主な 政策実現活動
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<自治体改革活動>
1月21日 茨城県 行方市 「なめがた市民100人委員会幹事会 第3回」
1月30日 滋賀県 高島市 「市民ワークショップ 第1回」
※その他、首長や自治体との打ち合わせ等 2件
<その他>
1月12日 平成27年度群馬県市町村トップセミナー 講演
1月27日 射水市議会 自民議員会 講演
1月30日 流山市議会会派 新風流山 講演
1月31日 神奈川県 伊勢原市議会「創生会」事業仕分け 市民判定人研修会
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【4】構想日本 2016年1月の主な 新聞・テレビ等メディア掲載
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1月13日 人口減少 どう向き合う(群馬県市町村振興協会セミナー)首長や議会議長トップセミナー 毎日新聞
1月22日 行政のムダ「1000億円削減」16年度予算案点検 基金2200億円を国庫返納 日本経済新聞
1月22日 三原市事業 14/15「要改善」判定 レビュー中間まとめ 生涯学習施設運営に厳しい声 YOMIURI ONLINE
1月28日 十字路 政策への関心 蓄積する工夫を 日本経済新聞
1月31日 18歳の声 総合計画に 高島市民が研究集会 中日新聞
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