【No.97】自由化をめぐって
2003.05.23

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自由化をめぐって
JIメールニュースNo.97  2003.5.23
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■■ 目次 ■■
1.《日本の改革》自由化をめぐって
~アメリカの教育制度論議が示唆するもの~
構想日本 政策スタッフ 室田 真一
2.《4月23日第70回「JIフォーラム」の報告》
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1.《日本の改革》自由化をめぐって
~アメリカの教育制度論議が示唆するもの~
構想日本 政策スタッフ 室田 真一

●日本での「自由化」の流れ
私は、この4月から構想日本の政策スタッフとなり、主に教育制度を
担当することになりました。どうぞよろしくお願い致します。
さて、言うまでもないことですが、今日本の社会は大きな改革の中に
あります。そこでのキーワードの一つは「自由化」です。経済だけでな
く行政のあらゆる分野が、(地方)分権や民営化へと動いています。た
だ、ここ数年こうした自由化の流れを見ながら、私の中で気に掛かるこ
とがあります。その思いは、私が前職の京都市役所を辞め、アメリカに
留学した時に、より強く明確になりました。今回はそのことに少し触れ
てみたいと思います。
●アメリカの「バウチャー」論議における4つの観点
私が3年ほど前、ニューヨークで留学生活を始めた頃、アメリカでは
「教育バウチャー制度」(政府が、教育費を学校ではなく保護者個人に
クーポン券(=バウチャー)の形で直接支給し、子どもが通う学校を自
由に選べるようにする制度)が大きな話題となっており、大統領選挙で
も大きな争点となりました。この制度の詳細や背景についてはここでは
割愛しますが、これは、まさに教育における自由化をめざすものでした。
私が当時師事していたHenry Levin 教授(教育経済学)によると、バウ
チャー制など教育の自由化は、主に、
1)選択の自由(選択肢の多様化)
2)生産の効率性
3)平等(機会・結果の双方を含む)
4)社会の一体性・安定
の4つの観点から考える必要性があります。ところが、実際に多くの場
合、これらの観点全てを踏まえた議論はほとんど行われていません。例
えば、バウチャー制の支持派は、個々の選択の行使が結果として人種や
社会階層の間に格差を生む恐れを見過ごしていたり、反対派は、既存の
公教育の画一性(多様性のなさ)や非効率な学校運営に目を向けていな
かったりします。一方の側は、相手側の観点を看過または無視している
ことが多く、議論がほとんど噛み合っていません。これに対し、Levin
教授は、上記4つの観点を基に、事の真偽を客観的に検証する方法を確
立し、検証作業を重ね、政策を総合的に判断することを説いていますが、
私もこの考え方に基本的に賛成です。
●日本の改革論議の現状 ~ 観点の置き方
実は、上記4つの観点による分析は、教育だけでなく、福祉・医療など
数多くの政策分野にも適用できます。とりわけ、「構造改革」など日本
の昨今の自由化論議に当てはめてみると、一概には言えませんが、1)
や2)の観点が先行しており、3)や4)の観点が見落とされがちのよ
うに私には見受けられます。私自身は、これまでの日本社会は3)と4)
への配慮が強すぎたので、今後は1)と2)の促進に重点を置くべきだ
というのが基本的な立場です。しかしながら、自由化などの改革によっ
て日本の社会が一体どうなるのかに関しては、3)や4)などの多様な
観点を十分に踏まえて議論をする必要があると思っています。
そして、そのように多様な観点を踏まえた上で、どの観点により重きを
置いて改革を進めるのかという問題は、私たち、とりわけ、政策や改革
に携わる者が、日本社会の将来あるべき全体像(基本構想、国家戦略、
等々)をいかにきちんと持つことができるかにかかっているのではない
かと思います。

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2.《4月23日第70回「JIフォーラム」の報告》
戦争に限らず、国が行動を起こす時の重要な判断基準となる「国益」。
しかし、これまで日本では、「国益」とは何かについて真正面からとりあ
げる健全な議論がなかなか成立しませんでした。
「『国益』というものは、各国間のせめぎ合いの中で確保していくもの。
だから、自国の『国益』を考える時は、第一に、各国の動きの背景に潜む
意図をくみとらなければ、真の『国益』追求の第1歩が踏み出せない。」
(ジャーナリスト 櫻井 よしこ氏)
「今回のイラク戦争で、米国は、開戦前に西側諸国から支持をとりつけた
かった。だから、いち早く支持を打ち出した日本としては、発言力を最大
限に活かせる千載一遇のチャンスだったという指摘は当のアメリカ人から
よく受けるが、何の要求もせず、ただ支持を表明しただけだった。日本は、
黙っていてもついてくる犬のように、軽くみられているのではないか。」
(デフタパートナーズ マネージングパートナー 原 丈人氏)
「今回のイラク戦争で、世界第2位の原油埋蔵量を誇るイラクが米国の支
配下に置かれ、エネルギー供給の90%を中東に依存している日本は、大
きなパニックに陥らないで済む=世界的な原油供給が保障される。だから、
今回の戦争は日本の「国益」にかなう。「国益」を考える際、こうした大
きなレベルでの利益を忘れてはならない。」(京都大学東南アジア研究セ
ンター教授 白石 隆氏)
当日は、ジャーナリスト、企業経営者、学者という異なる分野のゲスト
が、政治、経済など様々な側面から「国益」について真正面から語りまし
た。
「国益」というと何かナショナリズム的な響きがあり、議論すること自
体がややタブー視される傾向がありますが、現在、国会では国民の権利に
深く関わる有事法制が議論されています。私たちはそろそろ、ひとりひと
りが真剣に国のあり方を考え、真正面から「国益」についての議論に向き
合うべき時ではないでしょうか。
<討論者>
櫻井 よしこ(ジャーナリスト)
白石 隆(京都大学東南アジア研究センター教授)
原  丈人(デフタパートナーズ マネージングパートナー)
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