第98回 飽食の「貧食国」日本  2005.8.31
2025.09.04
パネリスト
◆萩原さとみ:「ファーム・インさぎ山」代表
◆三国清三:ソシエテミクニ代表取締役/オテル・ドゥ・ミクニ・オーナーシェフ
◆大村直己:食育コーディネーター
◆加藤秀樹:構想日本代表
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現代の子供をとりまく食の環境をどうしていくべきか、食育には何が大事か、その道のプロに語っていただきました。(以下フォーラム内容を一部抜粋、敬称略。肩書は当時のもの。)

日本は世界で最も豊かな食生活をしているにも関わらず、子供たちの心や体が蝕まれ、生活習慣病が若年化、医療費が膨らみ、食料自給率は先進諸国の中でもダントツに低いこの中で食をどう考え、ギアチェンジしていったら良いか。(大村)

本職の傍ら、全国で小学3・6年生向けに味覚の授業を行っている。6年は地方の小学校で1年間、田植え、稲刈り、精米して自ら作った米を炊いて食べる・家族や先生にも食べてもらう体験をさせる。子供たちは、大人に「お米を粗末にするな」と言われずとも一粒残さず大事に食べる。自分の土地、ふるさとに誇りをもってもらう今の子供はやってもらうことが当然、自分から人に何かしてあげることが減った。してあげることの喜び、奉仕の心を6年の授業で実際に落とし込む。(三国)

欧州のグリーンツーリズムをヒントに、9年前から自宅を開放し子供に生活科の実地体験(農業体験、堆肥作り、かまどでの炊飯、味噌づくりなど)をしている。都心から約30kmだが、周りには炭焼き体験や、わら細工などの知恵や技術が残っており、これらを伝えていくことこそ役目だと思っている。現代人は木に生ったものを直接手でとって食べた経験がない。トマト嫌いの子が真っ赤に熟したのを収穫し美味しいという。自分で育ててこそ一番安心して食べられて、本物の味だということをわかってほしい。(萩原)

子供の好き嫌いが多くなった理由は、農業と消費者がかけ離れため。昔は八百屋さんが「今これが旬だよ」と言ったことで、農家の情報がよく伝わった。流通経路が変わり、新鮮なものを食べる機会が失われた。昔は田舎の祖父母の所に行けば、採れたてが食べられた。(萩原)

日本の食料自給率は40%を切る一方で、日本人の残食分で世界の飢餓の子供を救える矛盾がある。まず日本人は旬を壊した。マグロやエビを1年中、世界中で獲って全部食べている。本来、旬というのは安全・安心を保証する。地産池消という言葉どおり、作り手と消費者はお互いを分かっているため悪いことができない。外国にいけば誰が食べるかわからず、そこまで責任をもって作らない。安全・安心は保証されない。(三国)

天然と養殖の鯛を食べ比べると、8割は養殖の方が美味しいという。とにかく肉が柔らかくて脂が乗っている。囲って運動させず、ギトギトの油を餌にまくため脂がのり、色粉を入れてピンクの鯛にする。一方、天然は餌がなく動き回るためガラガラに痩せている。岩にぶつかり骨はぼこぼこ、コブになる。色も汚く肉も硬いが天然の味、噛み締めてはじめて味がわかる。我々には歯があり、硬いものを噛み締めると唾液が出て消化を助ける。咀嚼は脳を刺激する。だからこそ味蕾が4万個になる小学3年から6年までに、甘い、すっぱい、しょっぱい、苦い味を大人が教える必要がある。(三国)

一番の問題は、戦後核家族化して、子供に箸の持ち方から教える人がいなくなったこと。味覚は体験。大人になり美味しいかまずいかを決める基準は、おふくろの味。母さんが愛情をこめて作ってくれたものは、握り飯だろうが、おしんこだろうが、その味がその子の一生を支配する。いかに体験と記憶が大切か。(三国)

調理するだけが食育ではない。食育の本質は体験に尽きる。今まですごく自信のなかった子が、木登りができるようになり成績も上がったというのも、農業の多面的機能といわれる。農業の持つ力はすごく大きい。生きる力というのは、体験の集積からくる。(萩原)

体験を伝えることは、机上で何かを教えるのとは違い、手間暇がかかる。母親と一緒に食べものを作って食べ、一緒に片付ける食の体験から育まれることが大きい。また食育という言葉は明治からある言葉で、当時は知育、徳育、食育、体育とあり、食育がすべての子育ての基本だという考え方。私も食育の定義は色んな考え方があって良いと思う。(大村)

<JIフォーラムレポート10選>
これまでに行われた講演・討論の中から、今でも参考になる内容の回を選び出し、その要点をまとめたレポート。
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