第86回
売り手よし、買い手よし、世間よし
―CSRって何?日本の商人哲学を見よ―
2004.08.25
  • 斎藤 敏一 (㈱ルネサンス 代表取締役社長)
  • 藤井 敏彦 (経済産業省、元・JBCE事務局長)
  • 矢尾 直秀 (㈱矢尾百貨店 代表取締役社長)
  • コーディネーター:足達 英一郎 (日本総研創発戦略センター)

企業の社会的責任(CSR)が問われて久しい。企業経営の今と昔、欧米との比較を通してその本質に迫る。
250年以上続く秩父の造り酒屋/百貨店を経営する矢尾氏は、近江商人の経営理念「三方よし」について、「他国へ行って商売をする際、地元の人に溶け込み良くすることは商売の基本」と説く。「元々不足しているところに必要なものを持っていったのが商売であり、それ自体が地域貢献。また番頭さんは特に女性問題と金銭問題に気をつけた。『その土地で問題を起こすと即刻解雇』が、戦後しばらく続いた。会社は社会に受け入れられなくなれば倒産することを、特に地方にいると強く感じる。クレーム処理を正しくしなければ競争力どころか会社が存続しない」と話す。

「日本では法令遵守の意味合いが強いが、欧米では社会・環境問題の配慮を率先して行うことで会社の競争力を築く、という経営戦略観で信頼を獲得し実績に繋げている」と藤井氏は話す。また日本企業には水俣をはじめ環境問題で悲劇的な経験の過去があり、環境を無視した経営では世間が良くならないという実感がある。対して欧州では失業問題が社会問題として色濃い。
また米国は「上げた利益をいかに地域に還元するか」を重視するが、欧州では「儲けたお金をどうするか」ではなく「儲け方」を重視する。アルバイトに従業員教育もせずに利益を上げ、その利益を寄付しても意味がないと考える。利益を上げる過程、例えば人材教育を人事機能に組み込むこと、しかもそれを企業が自主的に行うことを重要視する。日本でコンプライアンスが独自の発展をした背景には、CSRという言葉の輸入と同じくして雪印や自動車メーカーが不祥事と起こしたという状況がある。しかし法律順守は自主的なCSRではない。

近年欧州ではアンチグローバリズムの問題が注視されている。欧州の企業活動が人権問題や児童労働問題と関わるからだが、この感受性は日本にまだない。「世界をまたにかけて企業が活動する時には世界的な視野が必要」と藤井氏は語る。「欧米が現在、ISOのような国際基準を作ろうとしているが、日本も欧米の価値観に合わせるのか。あるいは日本的な視点や伝統に根ざして、受け入れられるものとそうでないものを区別し、強く主張していくべきか」という足達氏の問いに対して斉藤氏は、「誰が公平に考えても非常におかしいことを社長が言っている場合は、その社長を変えるシステムを作っていることが最低条件だと思う」また「欧州でよく聞く言葉はサステナビリティ。競争力よりも持続可能性がCSRとセットで必要だ」と語った。まさに大組織の風通しの良さや、人権重視の姿勢が改めて求められる20年後の今の世の中を言い当てた指摘であった。